坂本龍一さんの訃報に接して。(著名人の社会的言動について)

坂本龍一さんの訃報に接して。(著名人の社会的言動について) Music/音楽
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さる4月2日の夜、「坂本龍一さんが、3月28日に亡くなった」という速報が流れ、今週前半のニュース・情報系番組はこの訃報・追悼でもちきりでした。

高橋幸宏さんが亡くなった際にも触れましたが、多感な中学生の頃からYMOや各メンバーのソロ活動にリアルタイムで接してきた私としては、なんともやりきれない気持ちです。

といいつつ。

近年はずっと病気治療と音楽活動を並行していらっしゃったので、昨年末の「事前収録による配信ピアノライブ(今年1月、NHKが抜粋版を放送)」でのご本人の表情・コメント、そして何よりも想いのこもった演奏を見聞きした段階で、「あぁ、これが見納めなんだろうな。演奏も新作も、さらにはボソボソとこもった声のシャイなトークも、これで聴き納めなんだな」と悟ってしまったこともあり、今回の訃報に対しては自分でもびっくりするほど冷静に接することができました。

 

いろんなメディアがいろんなトーンで坂本さんのパーソナリティや業績を偲んでいますが、それらをざっくり整理すると「音楽面を中心に振り返る」形式と「音楽に加え、政治を含む社会的言動も絡めて振り返る」形式の2種類に大別されるようです。

全録レコーダーを購入したおかげで、私はたぶん、関東の地上波で放送されたほぼ全ての番組の「坂本さん訃報関連シーン」をチェックしていますが、「音楽」についても「社会的言動」についても、ほとんどの番組のほとんどのコメンテーターが肯定的に取り上げていたのが印象的でした。

そんな中、「社会的言動」について批判的に語ったほぼ唯一のコメンテーターが、4月3日放送の日テレ系『ミヤネ屋』に出演されていた、読売テレビ解説委員長の高岡達之さんでした。

番組自体は「音楽に加え、政治を含む社会的言動も絡めて振り返る」形式でして、MCである宮根誠司さんから「将来の子供たちのために、地球をどう残すかということを坂本さんは懸命に考え、活動してきた」という振りがあり、それに対して高岡さんが批判的なコメントを発したわけです。

正確を期すべく、コメントの全文を以下に引用してみます。

 お亡くなりになった直後の話なんで、こういう言い方はご批判を浴びるかもしれませんけど、率直に申し上げれば、音楽以外の、原発だ、あるいは自然の活動に関しては、テレビをご覧の皆さんの中でも賛成の方もいれば反対の方も僕はいらっしゃると思います。

ただ、音楽はね宮根さん、私も世界中の国に仕事で行きましたけど、中東でもアジアでもアメリカでも、ラジオでレストランで空港で駅で「戦場のメリークリスマス」が流れるんです。

ということは、それぞれの国の人がかけたい、聴きたい。で、それぞれの人の人生の記憶のうしろにあの「戦場のメリークリスマス」が流れてるんですね。

だから、私は「戦場のメリークリスマス」を一番聴いたのは、外国で、それも人が人生が行き交う空港だとか駅でした。

だからその思いがやっぱり世界の方々には通じてると思います。

4月3日放送 日テレ系『ミヤネ屋』より

これを聞いた瞬間、私は「ん? なんで『批判を浴びるかも』なんて予防線を張るんだろ? 脱原発にせよ自然保護活動にせよ、賛否がそれなりに分かれているのは事実なんだから、誰も批判なんかしないんじゃないの?」と思ったのですが、このコメントをよくよく味わってみると、高岡さんはご自身の意見を言わずに「世間では賛否が分かれてますよね」とだけ言っており、それ自体がちょっとズルい気がするわけです。

さらに深読みすれば、これは「自分自身の意見はともかく、社会的に賛否の割れる問題に対して坂本氏が発言したり行動すること自体への異議申し立て」のようにも聞こえます。

だからこそ、「率直に申し上げ」るその前に、「ご批判を浴びるかも」とエクスキューズを打つことにしたんじゃないでしょうか。

そして想像ついでに付け加えれば、高岡さん自身の意見は、もちろん「坂本さんの社会的言動には賛同しない・できない」ということなんだと思います。

 

だとしたら、「世界中の人々が『戦メリ』を聞いている」程度の薄い“お為ごかし”な賛辞でバランスをとったりせず、すなおに「音楽活動は評価するけど、彼の社会的言動は(内容もさることながら言動そのものにも)反対だった。」と言えばいいのに、と思っちゃいます。

それを、自分の意見を言わずに(言えずに?)「世の中では賛否が分かれている話題なのだ」とコメントするのって、結局は「芸術家やタレントは天下国家を語るな。門外漢は政治や社会問題に首を突っ込むな」と命令(推奨? 恫喝?)しているのと同じことになってしまうんじゃないでしょうか。

高岡さんご本人は「そんな気はさらさらない」と反論するかもしれませんが、あのコメントは、聞きようによっては「政治・社会・国家を語るには資格が要るってことか?」とネガティブに受け止められるリスクを含む発言だったと思います。
(ご本人が「別にリスクじゃない。なぜなら俺は心からそう思っているから」なのだとしたら、大きなお世話だったかもしれませんけど)

 

せっかくなので、坂本ファン歴40年以上の私自身の率直な想いもまとめておきます。

  • 坂本さんの楽曲と社会的言動のどちらにも、好きなもの好きになれないものがあった。

  • よって、「社会的メッセージ」が強く押し出された楽曲の中にも、好きなものと、そうでもないものがあった。

  • 特に音楽についてだけ言えば、後期になればなるほど「うーん、あまり好きじゃないかも…。ヘビーローテーションにはならないかも…」と感じる作品が増えてきた印象。(←私が歳をとったせいかもしれませんねw)

といったところです。

いいものもある。悪いものもある」(←分かるヤツだけ分かればいい)の典型のような評価で、あまり面白味がないかもしれませんけど、私としては「世界のサカモト! 名曲の数々! 社会的言動も立派!」一辺倒の現状のメディア空間のほうが面白味がないんですよね。。。

その意味で、「好きな方も嫌いな方も僕はいらっしゃると思います」という第三者的なコメントではなく、「自分は長年のファンではあるが、楽曲にも言動にも好き嫌いが当然あるのだ」と正直に書かせていただいた次第です。
(どの言動が好きで、どの曲がそうでもないのかは、長くなるので割愛します)

 

【ついでに。】

全録で見た追悼関連番組の中で、唯一グッと来たのは、4月4日のNHK総合「クローズアップ現代」で放送された北野武さんへのインタビューでした。

直前に「大島渚監督も、デビッド・ボウイも、そして坂本さんまで亡くなり、戦メリは俺だけになった」という追悼コメントを出していたたけしさんが、最新インタビューで何を語るのかと注目していたのですが、実に見応えがありました。

「坂本さんにもし声をかけられるとしたら?」と訊かれ、「(坂本さんは)やることやったよな。やったろ? やりたいことはまだたくさんあったろうけど、いい作品残したし、いいじゃん。」と寂しそうに、そして穏やかな表情で答えた北野さんの言葉は、お二人の関係性があればこそ成立するものであり、聞いていて涙腺がゆるんでしまいました。

 

【さらに余談。】

コロナ禍でおうち時間が長くなったのをきっかけに、2年半前に電子ピアノを買ったのですが、今回の訃報を受け、久しぶりに坂本さんの曲を弾いてみることにしました。

昔は「Merry Christmas Mr. Lawrence」「The Last Emperor」「1900エンニオ・モリコーネ作曲。坂本さんアレンジバージョン)」など10曲程度をほぼ完璧にマスターしていたのに、ちゃんと弾ける曲は、もはや1つもありませんでした。

坂本さんがいなくなっただけでなく、私の肉体自身までもが彼の楽曲から遠のいてしまったように思われ、これが今回で最もショックだったかもしれません。

 

ありがとうございました。そして、さようなら、教授。

(あーあ、電子ピアノ、処分しちゃおうかなぁ〜。。。)

坂本龍一さんの訃報に接して。(著名人の社会的言動について)
2023年4月2日、22:40のNHKニュースより。(これがNHKにおける第一報だと思います)

 

 

【参考】

坂本龍一さんの公式サイト。↓

siteSakamoto
Official site for composer and musician Ryuichi Sakamoto

NHKプラスの「クローズアップ現代」坂本さん追悼回。↓
(配信期限は2023年4月11日 午後7:57までです)

https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2023040430268?t=975

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