こんな「がん罹患者数」でした。

1月17日のフジテレビ『直撃LIVE グッディ!』を見ていたら、

厚生労働省は17日、全国の全病院にがん患者情報の届け出を義務付けた「全国がん登録」のデータを基に集計した「2016年のがん罹患数」を発表した。

16年に新たにがんと診断された患者の延べ人数は99.5万人

として、主に「都道府県別の罹患率」ランキングにスポットを当てたデータ紹介をしていました。

今なら、下記で放送内容の概略が画像付きで確認できます。
(番組サイト内のブログ記事なので、いわばオフィシャルなダイジェストです)

番組は、全47都道府県の「がん罹患率ランキングリスト」をパネル掲示しつつ、さらに上位県下位県については、各県(県庁)の担当者から寄せられた、
「まだ原因や理由が分からないので」
という困惑のコメントや、「県民性研究の第一人者」による「各県の食習慣や生活習慣・産業特性」分析を紹介しながら、スタジオに招いた「国立がんセンターの専門家先生」と意見交換するというスタイルで進行していったのですが、視聴者をミスリードしかねない要素がてんこ盛りだったように思います。

違和感その1:「罹患率の値」を一切紹介していなかった

罹患率のランキングリストを示して、「罹患率1位はこの県、2位はあの県」と紹介するものの、肝心の罹患率の値には全く触れることはありませんでした。

このコーナーの元ネタとなった「厚生労働省が発表した速報レポート(以下のリンク先)」には、当たり前ですが都道府県別の罹患率自体もキチンと載っています。

番組で触れてくれなかったので、老眼を酷使して上記PDFから罹患率の数字を拾ってみましたが、1位(ワースト)の県では「454.9」、最も低い(いわばベスト)の県では「356.3」となっています。

なお、この数字は「人口10万人あたり」です。

つまり、2016年の1年間において、ワースト県では「人口10万人あたり455人」が、最下位(ベスト)の県では「人口10万人あたり356人」ががんと診断されたということなのです。

これを百分率に直すと、「0.455%」vs「0.356%」、つまり1位と最下位での罹患率の差は0.1ポイントなのです。

これを敢えて「わずか0.1ポイント」と言ってしまいますが、このわずか0.1ポイントの中に47都道府県がひしめき合っている事実を知ってか知らずか、その微細な差を示すことなく「ランキングごっこ」をしてしまうような取り上げ方は、正直、どうかと思います。

違和感その2:そもそも「ランキング」で見せる意味があるのか

先ほどリンクした厚生労働省の公式レポートでは、「都道府県コード」に従って北から南へと都道府県別のデータが並んでいるだけで、「罹患率の高い順に並び替え」などされていません。

おそらく、スタッフさんが自らexcelなどに罹患率を打ち込んでデータをソートしたか、厚労省が別途提供したexcelファイルを用いてソートしたかのどちらかなんでしょうが、よく言えば「この時間にテレビを見ている人の興味本位に沿う」ため、悪く言えば「なんらかの悪意」をもってわざわざランキングリストを作ったとしか思えません。

しかも、パネル上のランキングリストに、ご丁寧にも「番組出演者の写真」を、彼らの出身県の位置にに貼り出しながら、
「Aさんの出身地である△△県は、Bさんの出身地である◯◯県より高いですね」
みたいな比較までしておりました。

番組の途中で「(たとえば)富山県出身で神奈川県に住んでいる人が東京都の病院でがんの診断をされた場合には、居住地である神奈川県でカウントされる」ことが明らかになるのですが、だとすると、この「それぞれの出身地に出演者の写真を貼る」という演出自体が全くもってナンセンスなわけでして、事前にそのくらいチェックできなかったのか、という気にもなってきます。

さらに言うと「厚生労働省が都道府県別の集計結果を発表した意図」自体もよく分かりません。

各県ごとに罹患率だけでなく、「罹患部位・診断時のがんステージ・年齢・罹患者のライフスタイル・既往症」などとの因果関係・相関関係の分析まで出来ているのならまだ理解できますが、この速報レポート(まさか、これが最終報告書ではないと思います)の段階で県別集計してみせる意味は、ほぼゼロなんじゃないかと思います。
(ゼロどころか、この番組のような、興味本位な取り上げ方を助長するだけだと思います)

違和感その3:がんとの因果関係を「県民性」だけで語るのはマズいのでは?

で、案の定、この番組では以下のように極めて雑な「罹患率が高いワケ・低いワケ」の考察が始まりました。

うどんおにぎりなど、炭水化物を重ね食いする某県が罹患率3位。(以下、県名は敢えて伏せます)

これは糖尿病のリスクを高める。

糖尿病や肥満は、がんのリスクも高める。

↑国立がんセンターの専門家先生も、あくまで一般論として同意してはいましたが、「うどんとおにぎりを重ね食いする → 炭水化物取りすぎて糖尿病になる → がんのリスクが高まる」という3段論法を「がん罹患率が高い要因」として提示するのは、いかがなもんでしょうか。

日本海側の某県で罹患率が2位なのは、塩分の高い食事が好きで、雪のせいで車移動することが多くて運動不足になりがちだからでは?

↑そんな県は、ここで取り上げられた某県に限らないはずです。
雑すぎます。

罹患率ワースト1位の某県では、カステラの消費量が全国一。

糖分の過剰摂取はがんリスク増加には影響しないそうだが?

大村正樹レポーターのこの説明を受けて、専門家先生は、
「この県は肺がん罹患率が高め。喫煙率が他県と比較してそんなに高くないそうだが、タバコは肺以外にもいろいろ影響するので」
と、これまた一般論の域を出ないコメントをなさっていました。

ここまで来ると、「何のためにわざわざカステラの写真まで出して『甘い物好きな県民』を印象付けようとしたのか、全く意味不明です。

一方の「罹患率が低い県」のほうでも、

  • 野菜摂取量が1位。プルーンブルーベリーの生産も盛ん。
  • 経済・商業活動が盛んで、大企業の工場も多く、健康診断がしっかり受けられる。
  • ゴーヤチャンプルテビチ(豚足料理)など、東南アジア的な食文化は胃がん発生率を下げる可能性あり。

などと、「思いつきでしょ? あなたの主観でしょ?」としか言えないような事象を、さもこれが要因とばかりに羅列し、専門家先生が「そういう可能性も考えられる」的な無難なコメントを加え、結果的にこの理由づけにお墨付きを与えかねないような演出が続いたのです。

うーむ。。。

厚生労働省の詳細分析を期待

番組の取材に対して、各県の担当者の多くが、
「なぜ罹患率が高い(低い)のか、裏付けになる理由が不明なので…」
という困惑コメントを出していましたが、「がん罹患の因果関係を説明できる分析結果」が出ていない現段階では、実に賢明かつ誠実なコメントだと思います。

コーナーのラストで、この調査に携わった専門家先生が、
「一般の方が特別何かに気をつけるという必要はなく、都道府県の県庁の方がデータを見て、対策をとるのが重要
とおっしゃっていましたが、だったら、各県で具体的かつ有効な対策に動き出せるような詳細分析を、調査に携わった一員として、(さっさと)行なってほしいと感じずにはいられませんでした。

さもないと、
「ゴーヤチャンプル食べよう」
「うどんとおにぎりの重ね食いはやめよう」
「大企業の工場で働きたい!」
「カステラは、よく分かんないけど、ブルーベリーと一緒に食えばいいんじゃね?」
みたいなマヌケな反応が多発するだけのような気がします。


【余談】
厚生労働省の先の速報レポートによると、「0〜74歳の累積罹患率は34.2%」なのだそうです。
これはつまり、
75歳を迎える前に、日本人の3人に1人以上ががんに罹る
ということです。

ちなみに都道府県別だと、最高が38.6%で、最低が30.0%となっておりまして、これは地域間でわりと差が開いている印象を持ちました。

50歳を過ぎた私にしてみると、こっちの数値のほうがよっぽど気になったりします。

ということで、健康第一。