こんな「万引き家族」でした。

現在旅行中でして、iPad Proのみでの投稿になりますので、文字装飾やリンクなどが通常よりもシンプルになります。(要するにプレーンなテキスト中心ということです) ←帰宅後、多少の加工を追加しました。

で、本日は旅行中に観たカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を獲得した是枝裕和監督作品『万引き家族』について思うことなどを書いてみます。(ネタバレは含んでいないつもりです)

大まかなあらすじや全キャストなどは上記リンク先などから確認していただくとして、ここでは鑑賞後の感想を中心にお伝えします。

まずは、ザックリとした感想

最近、育児放棄やそれに伴う女児の死亡という悲しい事件が発生しましたし、家族のつながりが希薄になったと言われるようになってからも久しいわけです。

通常「社会や家族の多様化」と表現されるときは、通常「ポジティブな文脈」で語られがちですが、この映画に登場する「ある家族」オリジナリティというか特異性というか異常性は、「多様化」という言葉でくくれるような生やさしいものではありません。

映画タイトルや予告編などでも分かるように、この家族は樹木希林さん演じるお婆ちゃんの年金のほか、家族の各メンバーがそれなりに働いて収入を得るかたわら、「万引き」をしながら生活しています。

それだけでも十分にオリジナリティあふれる特異で異常な家族なのですが、それはある種のカモフラージュでして、物語の進行とともに明らかになる「この家族の実像」は、ちょっと衝撃的でもあります。

ストーリーのベースに「経済的な貧しさ」がありますが、決してそれだけに収斂しきれない「家族たちそれぞれが抱える心の闇とか苦悩」が丁寧に描写されている映画だと思います。

今の日本にこんな家族がホントに存在するのかどうかはともかく、こういう状況を生むに足る素地が蔓延しているという、おそらく是枝監督ならではの問題意識・憤りも感じることができました。

キャスト

是枝作品の常連出演者である(らしい)リリー・フランキーさんや樹木希林さんの安定した演技はもちろんですが、他の家族たちの演技は(子役も含め)素晴らしかったと思います。

例えば、リリー・フランキーさんの妻役を演じた安藤サクラさん。

生活に疲れ、やさぐれた日々の姿の中にフッとにじませる優しい表情は、見ていてたまらなくなります。

もう、助演女優賞ものだと思うほどです。

安藤サクラさんの妹役を演じた松岡茉優さんの体当たりでピュアな演技もグッとくるものがあります。

私は、NHKの連ドラあまちゃんで彼女の存在を初めて知ったのですが、コミカルで元気なネーチャン役だけでなく、今回の映画で、実に奥の深い演技を見せることができる女優であることを認識しました。

そして、極め付けは子役の城桧吏くんと佐々木みゆちゃん。

この2人は、ホントにカメラやスタッフの前で演技をしているのか?

というか、「演技」でこんな言動ができるのか?

実際の生活を隠し撮りでもしていたんじゃないの?

と思わざるを得ないような、たまらない芝居(芝居に見えないのですが)によって、観る側の感情を揺さぶってくれました。

他のキャストも十分にすばらしいのですが、上記の役者たちの存在感がスゴ過ぎて、正直、他の俳優陣は霞んでしまったようにも感じました。

言葉を選ばずに言うと、「他のキャストは誰でもいいけど、この家族たちはこのキャストじゃなければ成立しなかった」という気すらします。

さらにブッチャケると、他の家族たちの演技に見入ってしまうと、柴田治という役柄ではなく、リリー・フランキーさん本人の「品の良さ」のような素の表情が見え隠れしてしまう部分もあったように思います。

リリーさんの俳優としての力量には素晴らしいものがあるのは承知しているものの、それ以上に前述のキャストが良かったということです、念のため。

セット・美術・衣装

「社会の底辺の暮らし」を表現するには余りあるセットと美術だったと思います。

特に、家族が暮らす古い平家住宅は、外装・内装ともに「貧しい生活の匂い」がスクリーンを通して漏れ出してくるようでした。

とにかく、建屋、壁、家具、寝具、雑貨、食器、衣装に至るまで、「洗練・センス・清潔」の遥か対極にある荒んだ生活ぶりを、これでもかと見せつけてくれます。

観ていて何度も「きったねーなぁ。こんな所に人間が住めるのか?」と顔をしかめたくなりましたが、それがこの映画の世界観をリアルに表現する大きな役割を果たしていたと感じました。

音楽

元・はっぴいえんど、元・YMOの音楽家、細野晴臣さんが手がけていらっしゃいます。

テクノ色も派手さもなく、大変質素な映画音楽に仕上がっていました。

よって、「メインテーマのフレーズを、鼻歌などで口ずさみたくなる」ような類のサウンドではありませんが、むしろそれがこの映画にはピッタリだったかと。

いい意味で「枯れた音楽」でした。

メッセージ性

是枝監督は、先日もニュース番組などで「社会批判・政権批判」ともとれるコメントを発していらっしゃいましたが、この映画製作の根っこに「この世の中に対する怒りとか違和感」があることは確実だと思います。

かと言って、それをドキュメンタリーなどではなく、フィクションによるエンターテインメント作品によって世に問うたあたりに、監督ならではの品性というか矜持が感じられました。

(まぁドキュメンタリー映画作家ではないと言われればそれまでですけど)

いずれにしても。

ここで描かれる「貧しい家族」は(映画の中盤あたりまでは)実に幸せに暮らしています。

「貧しいながらも楽しい我が家」の様子が非常に良く伝わってきました。

「豊かさとは何か」「家族とは何か」「幸せとは何か」というあたりに思いを巡らしたい方には、実に良い材料を提供してくれる映画かと思います。

映画館で観てよかったか(感想のまとめ)

カンヌ国際映画祭グランプリというがついたので、興味をもって観に行きましたが、決して退屈はしませんでした。

仮に自宅のテレビで、食後に寝転がりながら観たとしても、ウトウトすることはないと思います。

「涙と鼻水の洪水」になっている女性の観客もいらっしゃいましたが、私の感情がそこまで高ぶることはありませんでした。

おそらく是枝監督の作風なんだと思いますが、これ見よがしな感動的なシーンはほぼなく、抑制的かつ丁寧な描写が持ち味の映画だと言えます。

しかも分かりやすいハッピーエンドで終わるわけでもありませんから、「映画を観て思いっきり笑ったり泣いたりしてスッキリしたい」という方の欲求が満たされることは、まずないと思います。

前述のように「『家族とは何か』に思いを巡らしたい方」に向いてはいますが、「救いのあるストーリー」ではありませんので、その意味では、「WOWOWでやるんだったら、確実に予約して観るべき映画だな」というのが、私の感想です。

【注】

「実は、この家族はさぁ」という部分が、映画の中盤から後半にかけてどんどん明らかになっていきますが、一応ネタバレにならないよう、「公式サイト」情報に準じた表現にとどめながら書いたつもりです。

ただ、仮に他のブログなどで「ネタバレ」記事を読んでしまったとしても、この作品に関しては大きな支障にはならないと思います。

そもそも「ラスト15分で、衝撃の結末が!」みたいなタイプの映画じゃありませんし。w