昨夜の「報道1930」がスリリングだった。

以前、こんなことをつぶやいたことがあります。

 

で、昨日(2020年8月20日)。
岡田さんの告発からほぼ半年経って、この辺の事情をBS-TBSの「報道1930」が紐解いてくれました。

主な出演者は、以下の通りです。

  • MC:松原耕二さん(元TBSの記者・ディレクター)

  • コメンテーター:堤伸輔さん(国際情報誌「フォーサイト」の元編集長)

  • ゲスト1:武見敬三さん(自民党 新型コロナ対策本部顧問、感染症対策ガバナンス小委員会 委員長、元厚生労働副大臣)

  • ゲスト2:上(かみ)昌広さん(医療ガバナンス研究所 理事長)

両ゲストとも、他のメディアや番組でもしばしばお見かけしますが、とりわけ上さんは(ウィキペディアによれば)しばしば「発言が不正確」であると批判されたりしているようです。

しかし、与党・自民党の責任ある立場の政治家が同席し、両ゲストとも「今の体制では秋・冬に向けてPCR検査数を十分に増やせない(つまり、足りていない)」「保健所の仕事が多すぎる」「現体制には問題がある。変えるべき」という方向性においてほぼ一致していたのが印象的でした。

武見さんは、上さんの発言に対して「それは事実じゃない。まるで陰謀論じゃないか」などと否定することもありませんでしたし、出演前出演後にご自身でツイートもされていますから、番組の構成や共演者との段取り・役割分担などを含め、概ね納得ずくでのご出席だったのではないかと思います。

上さんは、「感染症村(=厚労省・感染研を中心とする利益共同体)」がどういった経過で形成され、コロナ禍においてどんな悪影響を与えているのかを解説されていましたが、それをどう受け止めるかは各視聴者が判断するしかないんだと思います。
ただ、少なくとも私は視聴していて腑に落ちる点が多かったですし、そもそも与党の武見先生が異論を唱えることもなかったため、私には「おそらくこれが実態なんだろうなぁ」と感じられた次第です。
(念のため申し上げると、武見さんご自身は「感染症村」という表現は使っていなかったと思います)

そんなわけで、備忘メモとして、発言のポイントを記録しておきます。(全部が事実かどうかは分かりませんし、私が聞き間違いをしている可能性もあります。また実際の発言順通りではない箇所もあるので、念のため)

 

保健所が忙しいのはなぜか。

  • コロナ関連だけでも、保健所業務は「検体運搬、入院調整、患者輸送、濃厚接触者の健康観察、消毒、公費負担手続き、国や自治体への報告書作成」と多岐にわたる。

  • 第一波に比べ、1人の陽性者から派生する濃厚接触者の数が増えてきた。「陽性者1人から濃厚接触者90人」の例も。

  • 保健所からは「追跡調査で感染拡大を抑える手法が限界にきている」との声も。

  • 保健所が主体となり地方衛生研究所などが分析を行う「行政検査」で実施されるPCRのルートは、主に2ルート

  • 当初は「保健所・相談センター → 帰国者接触者外来 → 検査機関(感染研・地方衛生研究所など・大学・医療機関・民間検査会社)」のルートのみ。

  • その後、医師会やクリニックが自治体と契約すれば「健康保険収載」によってクリニックで検査できるルートが追加。
    • 流れは「保健所・相談センター → 医師会が作った検査所やクリニック → 民間検査会社」
    • 保険適用だが、「3割自己負担分」を“行政検査”として公費負担してもらえるので、患者負担はゼロ。

  • で、どっちのルートでも保健所を経由するため、検査が増えればさらに保健所の負担が増える。
    • 人口46万の葛飾区でコロナ対応にあたる保健所スタッフはわずか30人…。

  • 上氏のコメント
    • 保健所を経由する行政検査の対象は、感染疑いか濃厚接触者のみ
      ビジネスマン、ホームレス、エッセンシャルワーカーへの感染チェックができないのは問題。
  • 武見氏のコメント
    • 民間への業務委託や電子化を進めてでも、疫学調査は増やしていくべき
    • 「保険を使ってクリニックで検査」を始める際、指定医療機関と同じレベルの検査精度と安全管理ができるかどうか、都庁の指示で保健所職員がいちいち現認調査をすることに。 → 業務過多を理由に保健所は消極的だった。
    • それでも、もろもろの段取りを見直すよう厚労省に圧力をかけ、行政検査だけでも「4月は1日あたり1万件」を「現在は5万件」まで増やした。
    • 秋冬はさらに心配。経済を回しながら感染予防もしていく必要あり。
    • そのためにはPCRのさらなる充実が必要だが、これは「予防的な検査」なので、行政検査の枠組みでは法的にできない

 

「自費検査」ルートは増やせないか?

  • 上記の行政検査以外に、(自治体との契約のない)クリニックでの自費検査ルートがある。
    • 保健所は関与しないので、これなら業務負担増にならないから、こっちをもっと増やすべき。
    • しかし検査費用は2〜5万円全額自己負担なので高すぎて普及しない。

  • 上氏のコメント
    • 「自費検査ルート」だと、陽性報告は国に上がるが陰性報告の義務なし。よって全体像が国に上がっていかない
    • そもそも行政検査は厚労省国立感染症研究所(感染研)が作った枠組み。保健所を絡ませて情報独占をしたかったのでは?
    • 公衆衛生は国家の研究の側面が強かった。これに対して一般の診療は患者の治療に主眼がおかれている。そもそもの意味合いが異なっていた。

  • 武見氏
    • そもそも検査費用が高すぎる。
    • PCRを保険収載する際に、民間検査会社が検査機器の購入や人材確保がしやすいように、診療報酬で1,800点(18,000円)つけて経済誘導した
    • 18,000円のうち、民間検査会社が12,000円ぐらい取っている。だから自費検査をするクリニックの料金が12,000円を下回ることはない。
    • しかしここまで検査が増えれば、もう価格を下げなければいけない
    • そのためには中央社会保険医療協議会(中医協)での手続きが必要。今、我々から中医協や厚労省に徹底的に圧力をかけているところ。そうすれば彼らはやらざるを得ない。

  • 松原氏:たとえば秋までにできるか?

  • 武見:やろうと思えば来週にでもできる。

  • 松:じゃぁ、やって下さい。

  • 武:そのためにも、PCRの実際の実費コストを調べないといけない。
    • 自立的に検査ができる機関でPCRの実費コストがいくらぐらいなのか、まだ我々には分からない
    • 厚労省に実費調査を指示している。実費以上に暴利を貪るクリニックや民間検査会社があるのであれば名前を公表しろと言っている。

  • 上:慈恵医大が職員向けに実施している分でいえば、人件費を除いた消耗品代は700〜800円ぐらい

  • 武:(それ見たことか、という勢いで)だから、高くても数千円(数百点)でできるはず。それが今18,000円(1,800点)なんて、考えられない。

  • 松:「1週間でできる」なら、やって下さい。

  • 武:我々は、もう徹底的に圧力をかける。

  • 松:上さん、劇的に価格は下げられそうか?

  • 上:検査数を増やしたくない人たちがいるので、彼らが反対するだろう

 

「感染症村」とは何か?

  • 松:感染研や保健所が検査情報を独占したいとする行政検査に象徴される枠組みを、上さんは「感染症村」と言っているが、どうやったらなくせるのか?

  • 上:世論が怒らないとなくせない。
    たとえば「社会的弱者・エッセンシャルワーカーへの検査実施」の声が自民党から上がり、その方針発表の前日に、当時の専門家会議は「無症状者にはやる必要がない」という意見をとりまとめた。
    専門家会議は、まさに「感染症村」。検査をやりたくないという強い意志がある


  • 松:「感染症村」とは具体的にはどこ?


  • 上:厚生労働省の医師免許を持った官僚(医系技官)感染研。ここで全部決めている。
    他にも地方衛生研究所は天下り先の一つ。保健所の中には元キャリア官僚がたくさんいる。

  • :この状態を解消するには?

  • 武:たくさんの法律を改正する必要あり。この公衆衛生・検査制度はできて100年以上経ち、ひとつの原理ができてしまっている。
    公衆衛生学的にやるPCRと医療・臨床的にやるPCRは異なっている」という原理原則に縛られていて法改正だけでは機能させるのが難しい。

 

「感染症村」を変えるためには?

  • 松:この状況は、政治でしか変えられないのでは?

  • 武:(自分が委員長の)自民党 感染症対策ガバナンス小委員会で、9月上旬を目途に、閉鎖的な枠組みを開放型に組み替えて一体的に運営できるようにしてPCR拡大を図る。安心して経済活動が活性化できるための予防的な検査も盛り込むつもり。

  • 松:具体的にはどんな組織を考えている?
  • 武:政府の下に健康危機対応組織を置く。
    そこに感染研国際医療研究センターを組み込んで、治療・公衆衛生・研究開発・検査を一体運用する。
    この2組織は隣同士に建っているのに、いまだかつて連携したことがない。このままでは行政検査の閉鎖的な枠組みは変わらないので、2組織の統合まで見据えているが、厚労省は反対している。

  • 松:保健所はどうする?

  • 武:これまで地方自治体に属していた保健所や地方衛生研究所もその配下に位置付ける。
    意思決定・指揮命令系統を、末端の保健所に至るまで一本化する。

  • 松:これが実現すれば「感染症村」は崩れるか?
  • 上:国と自治体のどっちが責任を取るのかが分かりにくい「二重行政」体制が変わるので、この一本化は大きい。

  • 松:いつできる?

  • 武:膨大な法律改正が伴うので、来年の通常国会で。
  • 松:今年じゃないの?

  • 武:今年の臨時国会でやるべきは特措法の改正。強制力のある営業停止と一定の補償が優先。

  • 松:新組織体制に対する、官邸と野党の反応は?

  • 武:西村担当大臣は前向き。
    加藤厚労大臣は「もう少し事態を見極めたい」として慎重。
    野党の一部には「私権の制限」に強硬反対する向きもあるので時間がかかる。

「感染症村」が出来上がった歴史は?

  • 明治8年、内務省の中に感染症対策組織が発足。飲食店検査など、地方の衛生指導行政は(内務省管轄の)警察が担う。

  • 昭和12年に保健所が誕生。健康な民と強い兵隊を作るために、これも内務省が作った。つまり徴兵制度の一環。 → それでも地方の衛生指導行政は引き続き警察が担う。

  • 昭和13年に厚生省設立。
    • 結核撲滅を目的の一つとして陸軍が主導。
    • こうして感染症に対応する組織が2つできた

  • 戦後、保健所は「位置付けは各自治体の下。監督は厚労省」となり、国と地方の双方にまたがる状態に。

  • 松:保健所が厚労省直轄ではなく、指令系統がはっきりしないから、総理が「PCRを増やす」と言っても動きが鈍かったということですね。

  • 明治32年に国立伝染病研究所設立 → その後の「国立感染症研究所」に。

  • 上:公衆衛生行政と軍の関係は古く、国立病院は戦前ほぼ全てが軍の病院だった。
    内務省・軍が解体された戦後も、陸軍・海軍の軍人(中には731部隊のメンバーも)が帰ってきて厚生省を主導していく。

  • 松:国策・富国強兵・軍主導でやっていたから、「国民の命を守る」よりも「情報の独占・管理」に主眼が置かれたということか?

  • 上:日本の公衆衛生政策は、内務省と軍が主導してきた歴史がある。これが現在でも「厚労省・感染研が決めて保健所に仕事を押し付ける」という仕組みにつながっている。だから患者目線になれない。

  • 松:戦後70年以上経った今でも当時の影響が引き継がれて残っているのか? 変わらないのか?

  • 上:ノウハウ人事はそう簡単に変わらない。
    たとえば慈恵医大は海軍が仕切っていた。開学者は元薩摩藩の重臣。そして現在の専門家会議に出ている感染研メンバーには慈恵医大出身が多い
    伝統はそう簡単に変わらない。それぞれの組織が内部固有の価値観を持っている。

  • コメンテーターの堤氏:これは軍国主義が残っているということではなく、ある種の利益共同体的な側面が形を変えつつも残っていて、データ・予算・人事(天下り)を「感染症村」の中で差配しているということだろう。
    その都合の良さは、戦後70年以上経ってむしろ強化されたのではないか。
    政府内にできた専門家組織が感染研を中心とした人員配置を色濃く反映していて、厚労省と一体化している。
    専門家が政府批判をしたかと思えば政府枠内の立場に戻ったりするのは、そういう影響。

  • 武:公衆衛生学的な行政サービスは検査と疫学調査の二本立てだが、検査を担う保健所は「食中毒が出れば営業停止命令」という私権制限もできるので警察・消防に近い。
    つまり通常の医療サービスとは異なる、かつての内務省主導のような観点が今日もまだある
    だから「行政検査のPCRは精度も管理されているから最終的な政策判断データになる。臨床検査としてのPCRは判断材料にはならない」という扱いになる。
    さらに、行政検査としてみなされるようなかたちで臨床検査が行われないと、隔離対象にもならないのが実態。

  • 松:そもそもが「研究の一環としての検査」なので「精度にこだわる → だから偽陰性・偽陽性が問題視されている」のか?

  • 上:今はむしろ民間でやる検査の精度のほうがいいぐらい。
    ただ、最新の研究データが出てきても、いったん問題視したときの偽陰性・偽陽性の確率値を更新できない。国に唯一の権威ある強い組織は、間違いを認められない。居直ってしまう。

 

感想

概ね、まぁそういうことなんだろうなと感じましたし、「PCRの消耗品コストが実は1,000円以下」というのは初めて聞きましたから、「日本近現代史の光と影」みたいな構造解析とも相まって、大変興味深く拝見した次第です。

個人的に気になったのは…、

  • 武見先生、威勢はいいけど、実際どこまで厚労省を動かせるんだろう? それに「新たな健康危機対応組織による一本化は、来年の通常国会で」とか「PCRのコストはまだ調査中」とか言われちゃってもなぁ。。。
    (ちなみに、お父君の武見太郎さんは、日本医師会どころか世界医師会の会長を歴任なさったとのこと。ご子息としてぜひ奮起していただきたく)

  • 上先生、なんだかんだ言って、「感染症村には、何をもってしても敵わないよ、どうせ」みたいに、実はほとんど諦めちゃってるんじゃないのか。。。?

というあたりでしょうか。

 

以上、想像をはるかに超える長文となり、恐縮です。(そのくらい見どころ満載だったということです)

 

なお、番組公式の「まとめ」動画はこちら。↓