17日の夜から、「『元SMAPメンバーの3人のテレビ出演に圧力をかけた疑いがある』として公正取引委員会がジャニーズ事務所に注意した」というニュースが流れています。
個人的に興味深い報道だったので、各局の取り上げ方などを調べてみました。
調べた方法
- Panasonicの全録マシンを使い、17日から18日にかけて「SMAP 圧力」というキーワードで番組検索・シーン検索で抽出された番組をザーッと視聴しました。(ちなみに関東地区です)
- なお「シーン一覧」上でこのニュースが表示されない場合は「取り上げずにスルーした番組」とみなしました。
報じられた事実関係
各メディアの報道を「ストレートニュース」っぽく要約すると、こんな感じになります。
- 誰が:公正取引委員会が、
- いつ:17日までに、
- 誰を:ジャニーズ事務所に対して、
- なんの疑いで:独占禁止法違反(取引妨害)につながるおそれがあるとして、
- 何をした:口頭で注意した。
具体的には、
関係者によると、「退所済みのSMAPの元メンバー3人をドラマやバラエティ番組に出演させないよう、テレビ局などに対して圧力をかけていた疑いがあることが分かった」
というものです。
これに対してジャニーズ事務所は、
- テレビ局に圧力などをかけた事実はない。
- 公取委からも独禁法違反行為があったとして、行政処分や警告を受けたりもしていない。
- とはいえ、このような当局からの調査を受けたことは重く受け止める。
- 今後は誤解を受けないように留意したい。
とコメントしたそうです。
第一報を伝えたのは…
- 17日(水)21時からのNHK『ニュースウォッチ9』がテレビでの第一報だったようです。(これより前の時間帯で検索に引っかかる番組はありませんでした)
- 実際、同番組はこのニュースをトップ項目で扱い、しかも「独自」という見出しまで打っていましたので、NHKのスクープなのでしょう。(NHKさんは「スクープ」ではなく「独自」と表現するみたいです)
「圧力をかけられた(とされる)対象」の表現について
各局で以下のように微妙な違いがありました。
- NHK・日テレ・テレビ朝日はいずれの番組でも「民放テレビ局などに対して」と伝えてました。
- TBSは「一部の民放テレビ局に対して」と表現しています。
- フジテレビは「テレビ局などに対して」という言い回しでした。
もっとも漠然としている(させている?)のはフジテレビの「テレビ局など」でありまして、「どこの局に対して」なのかが一番特定しにくい表現になっています。加えて「テレビ局など」としているため、他のメディアに対しても圧力がかかっていたかのようにも受け取れます。これって、うがった見方をすれば「圧力に屈したのはテレビ局だけじゃないよな? 紙媒体だって一蓮托生だろ?」と予防線を張っているようにも思えます。
一方、「圧力がかかっていたのは主に民放テレビ局(だけ)である(≒NHKは含まれない)」かのようなニュアンスを感じさせるのがNHK・日テレ・テレビ朝日です。NHKがそう報じるのはスクープした自信の表れかもしれません。
そして、「民放テレビ局の、それも一部の局だけである」と、もっとも限定的に表現しているのがTBSでした。「要するに、民放のあの局でしょ」という証拠を握っているのかも。あるいは「うちの局は無関係ですから」という自信の表れとか。
まぁ、考えすぎですね…。
このニュースを取り上げた番組
各局の主要番組ごとに整理してみます。
NHK
『ニュースウォッチ9』(17日)
- 第一報を伝えた番組だけに、当然詳しく報道。
- 今年4月に放送されたインターネット番組で草彅剛さんが語った「独立後の苦労(大人の事情)に関する発言」まで紹介。
『おはよう日本』(ここから18日)
- 民放各局が「圧力をかけていた疑い」としか伝えない中、「独立した3人を出演させれば、(ジャニーズ事務所の)所属タレントの出演が難しくなるなどと感じさせる言動があり…」と、「圧力の具体的内容」も伝える。(←これ、民放では全くといっていいほど触れていません)
『ニュース7』
- 民放テレビ局関係者が、公取委に対して「ジャニーズ事務所に所属タレントの出演を依頼した際、事務所幹部から『元メンバーの3人が関わっている場合は、所属タレントは出演させられない』と圧力をかけられた」と証言していたことが新たに分かった、とさらなる続報を伝える。(これらの証言が今回の調査のきっかけになったとも)
- さらに、公取委の調査は今年に入ってから本格化したことまで報道。
- 加えて「独禁法違反とまでは認定できなかったが、元メンバーを出演させれば現所属タレントの出演が難しくなると感じさせる言動が確認されたため、将来的に違反につながりかねないと(公取委が)判断した」ことまでぶっ込んでくる。
- さらにさらに、「公取委は、先月(6月)下旬までには事務所を注意する方針を固めていた」とも。
- ダメ押しとして、元所属タレントの赤西仁さんの「事務所やテレビ・エンタメ業界の現状に批判的なツイート」や専門弁護士のコメントまで紹介。
- もう、このネタはNHKさんの独壇場です。
『ニュースウォッチ9』(2日連続)
- ニュース7の内容をほぼ踏襲し、ネット上での意見なども紹介。
- 加えて、当番組で3月に放送した香取慎吾さんへのインタビューから、「独立について理不尽あるいはネガティブに感じたことは?」という質問部分を抜粋して再オンエア。(香取さんは「生きていると大小いろんなことが絶対起きる。ひとつひとつに対して怯んでいたら生きていけない」と答えてました。立派です…)
- さらに、「かつて、カラーグラビアでジャニーズアイドルを載せ、モノクロページで他事務所アイドルを載せたら、ジャニーズサイドから『これはどういう企画意図なのか』と問いただされた。そんな質問自体が普通はあり得ないのでプレッシャーに感じた」という、元雑誌編集者(実名)の証言インタビューまで挿入。
- その上で、有馬嘉男キャスターが「テレビ業界に限らず、どんな世界にも忖度はあると思う。しかし、それを仕向けることはあってはならない」と、暗にジャニーズ事務所側の営業スタンスを批判するコメントで締める。
- NHKさん、独走状態です。20馬身ぐらいリードしてます。
民放各局
局別・番組別にまとめようと思ったのですが、紋切り型の“ストレートニュース”を読み上げるだけの番組が圧倒的に多かったので、私が注目した番組だけを恣意的にピックアップします。
TBS『NEWS23』(17日)
- アンカーの星浩さんが「TBSも(今後の)調査にしっかり協力してほしい」とコメント。
- 調査は今後も続くということなんでしょうか。いずれにせよ、自局(星さんはTBS社員ではありませんが)に向けたコメントを発したのは、星さんだけだと思います。
テレビ朝日『グッド!モーニング』(ここから18日)
- エンタメコーナーで新聞記事を引用する形で報じたあとで、コーナー担当の新井恵理那さんが「業界全体がクリアな体制になるのが求められているのかもしれませんね」と発言。
- シンプルなコメントではありますが、私が見た範囲では、星浩さんに続く2人目のコメントだったため、かなり頑張ったのではないかと思います。(他局含め、出演者がコメントしない(できない?)番組が大多数でしたから)
テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』
- ストレートニュース風に読み上げただけ。
- あの玉川徹コメンテーターすら無言を貫く。
フジテレビ『とくダネ!』
- ストレートニュース風に読み上げただけ。
- ベテランMCの小倉さんもコメントなし。
TBS『ビビット』
- 取り上げることなく、スルー。
- 国分太一さんがメインMCを務める情報番組です。
日テレ『スッキリ』
- メインMCの加藤浩次さんは、民放番組の中で最もメッセージ力のあるコメントを発してました。
- 「ジャニーズ事務所に限らず、大手事務所から独立したタレントが何年かテレビに出られなくなるのは、一部の視聴者だって気づいているくらいの周知の事実。僕ら出演する側だって、そういうことが暗黙にあるというのは分かっている。何十年前から当たり前のように続いているテレビ・芸能の歴史ではあるが、今の時代ではもうおかしいだろうということ。テレビ局・事務所など業界全体がこれから先、新しく変わっていくための、次に向かっていくためのきっかけになればいいと思う」だそうです。
- こうやって再録していて気づきましたが、これってまさに、業界の「新しい地図」づくりみたいなもんですよね。
日テレ『情報ライブ ミヤネ屋』
- もっともエッジの効いたクセ球発言をしていたのが、当番組メインMCの宮根誠司さんだと思います。
宮根さんいわく、
- 「有名な演歌歌手が2・3年間ぐらいテレビに出なくなることは昔からあって、自分のようなテレビ好きの中高生でも『大きい事務所をやめたからなんだな』と分かっていた。ただ、出なくなったのが事務所の圧力なのか、テレビ局の忖度なのかは分からなかった」
芸能レポーターの城下尊之さん、
- 「ジャニーズ事務所に『こういう取材をしたい』と持ちかけてNOと言われたことはない。むしろ向こうが『また圧力かけたって言われちゃうから』と気を使っているほど」
ふたたび宮根さん、
- 「僕の見解をはっきり言うと、(元メンバー3人がテレビ出演がなくなったのは、事務所の圧力ではなく)『テレビ局の忖度』ですよ、完全に」
- 「今の時代、(事務所から)『(元メンバーを)出さないでね』と言われたって、そんなの聞かないですよ」(←正確には「元メンバー出すなら、こっちは出さないよ」という圧力だと思うのですが…)
- 「現に(元メンバー3人は)CMだって映画だって出ているし」(←テレビ局の話なんですけど…)
- 「それだけ異常な『テレビ局側の忖度』なんですよ」(←根拠は…?)
- 「(こういうことを)あんまり言うと怒られる? 大丈夫?」(←と、スタッフに尋ねるような投げかけをしながらCM突入。少なくともジャニーズ事務所側には喜ばれる発言ですよね…)
『スッキリ』の加藤さんも、『ミヤネ屋』の宮根さんも、「こういった事態は昔から起きていて、業界ウラ事情として世間に知れ渡っていた」という点では一致しています。
しかし、それを「悪習だから業界全体で変えていこうよ」という加藤さんに対して、宮根さんは「ジャニーズ事務所からの圧力などない。あるのはテレビ局側の異常な忖度だけ」とお考えのようです。
まぁ、だとしたらその異常な忖度がなぜ形成されてしまったのかについてもぜひ探ってみて欲しいと思います。
とはいえ、こういう宮根さんのコメント自体が「芸能事務所側への壮大な忖度」になっているようにも思われますので、真相究明を期待するほうが野暮というものかもしれません。むずかしいもんです。
まとめると…
そもそも「テレビ局に対して圧力をかけていた疑いがあることが分かった」という内容なのに、「自分の局に対して圧力がかかっていたのかどうか」については各局とも一切触れないところが、このニュースの一番気持ち悪い点ではないかと感じます。
どこか1局ぐらい、「社内調査の結果はこうでした」とか、せめて「今後、社内調査に入ります」ぐらいのことを表明してもいいんじゃないでしょうか。
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