2023年3月28日に坂本龍一さんが亡くなってから、早くも1年が経ちました。
テレビでは、彼の関わった映像作品や過去のライブなどを盛んに再放送しておりましたが、さる4月7日、そのクライマックス的な番組が放送されました。
NHKスペシャル「Last Days 坂本龍一 最期の日々」という番組がそれでして、最晩年の日記やプライベート映像などを使って「病気の再発、闘病生活の苦悩、そして旅立ち」までを丁寧に綴ったドキュメンタリーです。
10代前半にYMOにどハマりして以降、ほぼずっとファンを続けてきた私にとっては、実に衝撃的かつ感動的な内容であり、おまけに、あと数年で還暦を迎える身でもあるため、「老いとは? 病とは? 生きるとは? 死ぬとは?」という哲学的なテーマについてまで、いやおうなく向き合わされてしまいました。
初見は、あまりにも心に刺さり過ぎて涙も出ず、ただ茫然。
2回目で、ようやく普通に泣けてきた。
3回目で、かなり冷静に受け止められた。
と、まるで身内が亡くなった時の「ひたすら衝撃 → 火葬の直前で号泣 → お骨になっちゃうと妙に冷静になる」という一連のステップを追体験するような感覚に陥りました。
同じように、コロナ禍もあってまともなお別れもできず、坂本さんが亡くなったという実感を持てなかった多くのファン(や関係者)にとっては、当番組を見てようやく心の整理ができた方々も多いんじゃないでしょうか。
そのくらい、故人や遺族への敬愛に満ちた、丁寧で深みのあるドキュメンタリーでした。
このドキュメンタリーが成立し得たのは、自撮りを含む膨大なプライベート映像ならびに本人の日記やメモの存在があればこそだったと思います。
番組冒頭で「遺族に取材を申し込んだら、未公開資料を提供してくれた」という解説文が提示されましたが、おそらくご遺族としては「この制作スタッフたちなら、低俗なのぞき見趣味に走ることなく、かといって妙な美談調に仕立てることもなく、坂本龍一らしさが伝わる等身大のドキュメンタリーにしてくれるに違いない」という信頼があったからこそ、資料を提供するに至ったのだろうと想像します。
さらにいえば、坂本さん自身が、プライベート映像を撮影する家族に対してはもちろんのこと、これまでの音楽活動を通して付き合いがあったであろう当番組のスタッフに対しても深く信頼していたからこそ、ドキュメンタリー制作そのものを生前に承諾(もしくは依頼)していたんじゃないかとすら妄想したりしているのですが、どんなもんでしょうか。
いずれにしても、著名人の闘病生活から亡くなる直前までを、ここまで克明に描いた事例を、私は他に知りません。
これまた、長年のファン特有の想像ですけど、この番組は、坂本さん独特のファンサービスの一環でもあり、もしかしたら、番組で紹介された最晩年の自伝『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』やラストアルバム『12』と同様、一種の“作品”として託された番組なんじゃないかとすら思えてきております。
もちろん、真相はわかりませんけれど、そう考えた方がファンとしては気が楽になるとでもいいましょうか。
一方で、「何もここまで見せなくても…」という気がしないでもありませんが、まぁ「これまでいい人生だった。好き勝手に生きてこれた。自分の自由気ままな生き方のせいで、いろんな場面で、いろんな人と、いろんな摩擦を生じたこともあったけど、それもこれも全部込み込みでサカモトなんです。そのサカモトのラストが、これです」という、“根っからのインテリ、心底から表現者”精神みたいなものが発露された結果なんじゃないかと。
これもまた、私の勝手な妄想ですけど。
ということで、このドキュメンタリーは、それこそ命がけの「遺作」のひとつとして受けとめたいと思います。
おまけ情報。
この番組は当初、4月11日 午前0時35分から再放送が予定されていましたが、ホワイトハウスからの日米首脳会談後の記者会見のため、休止になりました。
NHKさんによると「4月17日 午前0時35分から再放送(16日の深夜)決定」とのことですので、未視聴の方は、ご期待ください。
【参考】
NHKさんの「NHKスペシャル」公式ページ。↓
NHKスペシャル内の「Last Days 坂本龍一 最期の日々」紹介ページ。↓
坂本龍一さんの公式サイト。↓
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