あえてこの時期に「知ってはいけない」を読んでみた。

あえてこの時期に「知ってはいけない」を読んでみた。 Book/読書
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森友学園問題ですが、今日になってまた新たな動きが出てきました。

「試掘してみたら、新たなゴミが想定以上に深いところにも埋まっていた。だから追加対策が必要」という報告書が存在していて、それが「国有地売買契約における8億円の値引きの根拠」とされてきたのですが、大阪地検特捜部の調べに対して、試掘をした業者さんは

「学園側や近畿財務局サイドから書けと言われてしょうがなく書いた」

と証言しているという報道が出ました。

これが事実だとすると、虚偽の報告書を前提に値引きをしたことになります。

つまり、「本当は8億円も値引きする合理的理由はなかった。すなわち財務省は国有地を不当に値引きしていた」ことになりますから、「なぜ森友側にそこまでしてあげたのか」というそもそもの話に戻ってくることになります。

去年の今頃、「なんか不自然な取引だよなぁ、証拠ないけど。そもそも、そんなに大量のゴミが掘り出されてる様子なんか、ないじゃん。怪しいよねぇ」というレベルで報道されていたストーリーに対して、それを裏付ける証拠が出始めたということですから、関連する当事者の皆さんはさぞヤキモキしていることかと思います。

私のようなヤジ馬根性丸出しの一国民としては、この問題がこの先どこまで行ってしまうのか興味津々ではありますが、一方で、「公文書って、こんなに簡単に虚偽情報を混ぜたり、決裁後に改ざんしたり、さらには紛失したり、黒塗り公開していいんだっけ?」という、軽い徒労感にさいなまれていたりもします。

中でも「こういう経緯でこういう行政活動をすることになったんです」ということを記録し、後世において検証できるようにするための公文書が「改ざん」されてしまっては、事後検証も何もできなくなってしまいますから、国民の「オイコラ感」は半端じゃないと思います。

で、本題の『知ってはいけない 隠された日本支配の構造(矢部宏治 著、講談社現代新書、2017年)をこの機に読んでみました。

この本は、日米間における密約を裏付ける各種文書などの存在を明らかにしながら、「なぜ日本はアメリカの様々な意向を拒否できないのか」ということを解き明かしていく構成になっております。

その結果、「そりゃぁ、確かにアメリカはいろんな要求をしてくるけど、それは日本がきちんと言い返さないからでしょ? 交渉力がないからでしょ?」という淡い幻想を抱いている私のような者に対して、

「いや、それに関しては何十年も前に両国間で密約が交わされていて、その通りに事が進んでいるだけですから。
ほら、これが証拠」

という突きつけられ方をされますので、読んでいて「ホントかよ!?」と驚いたり、「なるほど、だからこうなっているのか」と納得したり、「これじゃ現在起きているあの問題なんて解決しようがないんじゃないのか?」と虚しくなったりと、まぁ実に複雑かつ多様な読後感を味わえるのです。

論拠とされる各種文書としては、「誰でも探せば読めるもの」もあれば「当時アメリカ側ですら機密文書扱いされていたのに、そもそもどうやって入手できたの?」というものまでレベルは様々です。

様々ではありますが、それらがたくさん引用された本書を読むにつれて、「ということは、つまり事実なんだろうなぁ。。ちょっとゲンナリ。。。」という気分にもなれる話が9章にわたって展開されています。

いくつか、エッセンスだけご紹介してみます。

まずは、比較的有名なところから。

関東西部の上空には、民間機の飛行が制限される「横田空域」が設定されている。

厳密には、民間機も飛べないことはないらしいですが、横田空域内の管制権は米軍が持っているので、「これで日本の領空って言えるんでしたっけ?」という状況にあることに変わりはありません。

航空関係で言えば、ほかにも、

1960年の「日米安保条約」改定の際、アメリカは航空管制権を返還すると同時に、米軍と日本のエリート官僚で組織された「日米合同委員会」で「米軍基地とその周辺は例外とする(管制権を返還しない)」という約束をした。

とか、

日本政府は軍事演習をおこなう米軍機については、優先的に管制権をあたえる(1975年5月の約束。というか密約?)

さらには、

日本の航空法の第6章では「離着陸する場所」「飛行禁止区域」「最低高度」「制限速度」「飛行計画の通報と承認」などが規定されているが、「航空法特例法」の第3項によって、「米軍機と国連軍機についてはそれらを適用しない」ことが定められている。

んだそうです。

つまり、米軍機は事実上、日本上空を好き勝手に飛べる権利を持っているということになりますね。

もちろん実際に実行するかどうかは別ですが、万が一そういう飛行によって我々の生活に支障をきたしたとしても、日本側は文句を言えないんだろうなというふうに理解できます。

治外法権についても、こんな説明がありました。

日本の警察は、基地の外であっても米軍の財産については捜査しない。(1953年9月29日の密約。日米合同委員会の公式議事録より)

沖縄などで米軍機が基地の外に不時着・墜落した際に、日本の報道関係はもちろん、捜査関係者も立ち入れない状態になるのは、こういう事情があるそうです。

これらの密約が決まっていく「日米合同委員会」については、

ここで決定した日米合意は日本の国会での承認を必要としない。
(1959年4月、安保改定交渉のなかでの秘密合意)

議事録や合意文書は原則として公表しない。
(第1回日米合同委員会での秘密合意、1960年6月)

などが約束されているとのことです。

今でこそ合意事項が外務省ホームページ上で公開されており(これが全部かどうかは分かりませんけど)、「日米合同委員会」の存在を知る日本人も増えてきたようですが、そもそも「国会承認も要らないし、原則非公表」なのですから、米軍基地を身近に感じない地域の人たちが密約やこの委員会を意識するのは難しいでしょう。

他にも、アメリカ軍人が日本で犯罪を犯しても罪に問うのが難しい状況に関連して、

米軍関係者の犯罪について行政協定文書を改定した際にあわせて、日米合同委員会において、

「著しく重要な事件以外は裁判権を行使しない」(裁判放棄)

「公務中の犯罪かどうか分からない時は身柄を引き渡す」(身柄引き渡し)

という密約があるとか、

砂川事件裁判で地裁判決が出た後、当時の駐日アメリカ大使が日本の外務大臣を呼び出して「高裁を飛ばして最高裁に上告するよう指示」したり、同じく最高裁長官に何度か接触し、「裁判日程や判決見通しを相談」した。

(結果、アメリカ側に有利な判決となった)

ことなどが記されています。

ちなみにこの裁判の時に「米軍駐留を定めた安保条約は、高度の政治性を有し、司法裁判所の審査にはなじまない」という最高裁判断が示された結果、「日米安保の合憲性・違憲性」を問うような訴えが起こしにくくなっているようです。

「わりぃ。安保関連ってさ、裁判にはなじまないんだよねぇ」という最高裁の判例があるのですから、確かに起こしにくいですよね)

とりわけ、

「戦争時、自衛隊は米軍の指揮のもとで戦う」という密約がある。

これは、1952年7月23日、当時の吉田首相とクラーク大将が、大将の自宅で口頭で交わした密約

2年後には2回目の口頭密約も交わされ、警察予備隊が保安隊→自衛隊へと格上げされた。

という密約はナルホドと思いました。

ここ数年、国会を中心に「集団的自衛権」とか「有事法制」とか「憲法改正」などが議論されていて、野党側は

「日本を再び戦争できる国にする気か!

アメリカが地球の裏側で始める戦争にも付き合う気か!」

などと反対していますけれど、これらの密約の存在を総合すると、

「何十年も前から、日本は米軍と一緒に戦争することは決まっている。

ただ、このご時世、それを密約だけで進めるわけにもいかない。

だから、憲法や法律のほうをむしろ密約に沿うように改正しよう。

おおっぴらに合法化しちゃえば、もう密約じゃないし〜。w」

という趣旨で法改正が進められていると考えれば、非常にスッキリと理解できる気がしてきました。

それでいいのか? という話は当然ながら残りますけど。

ただ、そういう密約があるのだとしたら、それをスルーして「日本を再び戦争できる国にはさせない!」と叫ぶだけでは、ちょっとナイーブすぎるようにも感じます。

アメリカでの公文書管理は、日本よりフェアなものらしく、一定期間を過ぎて機密指定をはずされると、未整理状態の資料であっても一般人への閲覧が許可されるようです。

まぁ、現在のアメリカにとって不利なものも含め、何でもかんでも公開されるとまでは思いませんが、「現在の感覚から見たら不思議な密約かもしれないけど、こういう経緯をたどって決定されたことなのだ」ということが後世において検証できるようにしてあるのは、決裁文書を省ぐるみ(あるいは部局ぐるみで)で改ざんする日本の公文書管理意識よりは、何倍もフェアな姿勢だと言えるのではないでしょうか。

ということで、森友学園問題とか文書改ざん問題に関心をお持ちの方には、ご一読をオススメします。

※本文冒頭記載のリンク先にある「各章のポイントをまとめた4コマ漫画」は自由に使用・拡散していい旨が本書に記されていました。(商用利用を除く)

次の行にもう一度リンク先を載せますので、ぜひ4コマ漫画だけでもご覧になってみてはいかがでしょう。

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