こんな「有名人と飲食店」でした。

先日、ある地方都市の駅ビルの飲食店で、親戚1名と一緒に食事をすることになりました。

駅ビル内には、多くの飲食店があったのですが、ちょうど夕食どきということもあってか、めぼしい店ではいずれも順番待ちの行列ができていたため、私たちはやむなく(比較的空いていて、肉も魚も蕎麦も郷土料理も何でもある、裏を返せばさほど特色のない)和食店に入ることにしました。

私たちが2名用の席に案内されてから数分後、すぐ隣の4名用の席を使っていた客が退店し、店員さんはそこに「予約席」という札を立てました。

そして、さらにしばらくして我々の食事も終わりかけていた時、隣席の「予約席」札がはずされ、「こちらでお願いしまーす」という店員さんの案内に促された男性客2名が、大きなキャリーバックを転がしながらその席に着席しました。

私は、店内中央に背を向ける形で座っていたため、彼らの接近など、まるで意識していなかったのですが、私の対面席で男性客2名の接近時から着席までの一部始終を見ていた連れの親戚は、みるみる挙動不審になっていきました。

「親戚、なんか目が泳いでるし」と思いながら、私も遅ればせながら隣席に座った男性客2名のうち、私の斜め対面席(親戚の並び)に座ったほうの顔を見て、親戚の挙動不審の理由を悟りました。

隣の席に着いたのは、数年前に独特の「ルーティーンポーズ」で一世を風靡した、某球技(ま、ラグビーですねw)の某有名選手(&もう1名の選手)だったのです。

連れの親戚は決して「ラグビー好き」などではありませんが、その親戚までをも挙動不審にさせてしまうほど、隣に座った2名のラグビー選手(うち1名は超有名)の存在感圧倒的でした。

こういうのを、オーラと呼ぶのでしょう、きっと。

その後、私と親戚は、目を見合わせて、

私「だよね?」

親戚「うん、そうだよね?」

私「やっぱり、確実だよね?」

親戚「絶対、そうだよね?」

などと、小声でシュールな会話をしたことを覚えています。

そうこうするうち、こちらは完全に料理を食べ終わり、食後のお茶も終わったので、席を立って店の出入口へ支払いに向かうことにしました。

もちろん、隣のラグビー選手(うち1名は誰もが知っている有名人)の存在は大変気になるわけで、何らかのコンタクトをとってみたい誘惑に駆られます。

しかし、チーム全員ではなく、2名で来店しているということはプライベートの側面が強いのでしょうし、メニューを広げて

「海鮮丼かなぁ。 でもカツ丼もあるなぁ」

などと相談しながら品定めしている人に対して、いきなり「◯◯丸さんですよね? 写真撮っていいですか? サインもらえますか? 握手いいですか?」とおねだりしまくるのも失礼だろうと思い、我々なりに(むしろ不自然なほどに無関係な)世間話に徹しながら、時おり彼らの表情をチラチラ盗み見るのが精一杯でした。

ところが、我々以上に浮き足立って挙動不審になっている人が1名おりました。

出入口付近のレジに立っていた店長と思しき男性スタッフです。

この店長、我々が支払いの順番を待ちながら「いやぁ本物だったね」みたいなことを囁き合っているのを聞きつけたらしく、我々の前で支払いをしている別の客をそっちのけにして、こちらサイドの会話にグイグイ入り込んできたのです。

「いやぁ、ですよね! あれ、◯◯丸選手ですよねぇ! すごいなぁ!」

「店に入ってくる時、全然気づかなくて、普通に案内しちゃいましたよ!」

「その時から気づいていたら、きっと自分、大変なことになってたと思うけど!」

意識が高揚しすぎていて、支払いの順番を待っている我々との会話に夢中になるあまり、精算中の客から「すいません、レシート下さい」と言われ、渡し忘れたレシートをどこにやったか慌てて探し、結局客から「これですよね」と指摘されてしまうほど、店長さんは舞い上がっていらっしゃいました。

で、我々の支払いタイミングになっても、店長さんの興奮はさらに続いていましたので、こっちからも少し燃料を投下してみることにしました。

我々「隣の席でしたけど、本物でしたよ」

店長「うわぁ、すごいなぁ! なんか(用事でも)あったんですかね!?」

我々「来年のラグビーW杯関連のイベントに出て、終わって帰る途中ってことなんじゃないですか?」

店長「そうかぁ! なるほどぉ! いやぁ、すごいなぁ!」

我々「隣の席でしたけど、小心者なんで、声すら掛けてないんですけどねw」

店長「そうかぁ! なるほどぉ! いやぁ、すごいなぁ!」

我々「食事が終わった頃に、サインとかいただいておいたほうがいいんじゃないですか?w」

店長「そうかぁ! なるほどぉ! いやぁ、すごいなぁ!」

我々「ちゃんとした色紙を持っていって、お願いしたほうがいいですよ?w」

店長「そうかぁ! なるほどぉ! いやぁ、すごいなぁ!」

我々「色紙、あります?w」

店長「いやぁ、さっきから色紙がどこで買えたっけ? って、ずうっと考えてるんですけど、買いに行かせないとですねぇ! いやぁ、すごいなぁ!

我々「じゃ、ごちそう様でした」

店長「あ、ありがとうございます。そうかぁ! なるほどぉ! いやぁ、すごいなぁ!」

ちょっとデフォルメもありますが、おおよそこんな感じでした。

雑然とした駅ビルで、しかも日も当たらない地下フロアの飲食店で毎日働いていらっしゃるのですから、こういう有名人の来店が「息抜き」というか「一服の清涼剤」や「仕事の励み」になるのも分からないではありません。

ただ、他の和食系の店は、いずれも店舗前の通路に椅子を並べて入店待ちの行列に対処していたのに、この店は飛び込みですんなり入れてしまう状態でしたので、まずはそこを何とか立て直していただいたほうがいいのかなと、他人事ながら感じた次第です。

ついでに言えば、我々の隣席の「予約席」に座った2人のラグビー選手が、ホントに予約してから来店なさったのかどうかも、私は怪しいと思っています。

「他店が満席&行列状態なのに、ウチだけ空席があるのはカッコわるい」

「このままでは、来店してくれたお客さんにまで『ここ、流行っていない店なんだね』と思われてしまう」

「せめて来店客には『いい店に入った』と思ってほしい」

「だったら、空席に『予約席』札を立てて、『単なる空席じゃない。次のお客さんがわざわざ事前に席を確保しているのだ』感を醸成させよう」

「で、飛び込みの客が来たら、その席を解放しちゃえばいい。 どうせ他の客にはその客が予約してから来たかどうかなんて分からないんだし」

こんなところではないでしょうか。

そんな空席に、飛び込みで有名ラグビー選手が着席したとしたら、そりゃぁ店長、さぞや嬉しかったことでしょう。

私も、行列ができている評判の良さそうな他店に並んだりせず、「すぐに入れる空いている店」に行ったからこそ、ラグビー選手に遭遇できたわけですから、ある意味「痛み分け」といったところかもしれません。