「言い換え」の技術について。

Conversation/会話
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先日、とある地方都市に出かける用事があり、その町のビジネスホテルでチェックインの順番待ちをしていた時の話です。

私のすぐ前のご老人(男性)の順番となり、彼はカウンターへと進んだのですが、フロントスタッフさんとの会話がどうも噛み合っていないご様子。

嫌でも私の耳に入ってくるので、この際じっくりと聞き耳を立ててみました。

 

若手の女性スタッフ:
「全国旅行支援の誓約書にご署名ください」

ご老人:
「ん? なんだって?(←ちょっと耳が遠い模様)」

女性スタッフ:
「全国旅行支援を受けるためには、誓約書にご署名いただくことになっていますので」

老人:
「『ぜんこくりょこうしえんのせいやくしょ』って、なんのことだよ? 俺は昔からもう何回も泊まってんだよ?!」

スタッフ:
「申し訳ありませんが、全国旅行支援の適用を受けていただくためには、ご宿泊のたびに誓約書を頂戴することになっておりますから」

老人:
「そういう難しいことは、オレは分かんねーよ!」

と、ここで、自分の応対業務が一段落した中堅の男性スタッフが横から参入。

中堅の男性スタッフ:(ちょっと大きめの声で↓)
この紙の、ここに、お名前を書いてもらえますか?

老人:
「あぁ、名前ね。これに書けばいいのかい。はいはい」

 

さすが、中堅スタッフはお客さんの扱いに慣れてるもんだな、と感心していたら、間髪をいれずに第2ラウンドが勃発。

 

女性スタッフ:
「身分証明書を拝見できますか?」

老人:
「よく聞こえねぇよ。なんだって?」

女性スタッフ:
「お客様の身分を証明するものを、ご提示いただけますか」(←ちょっとイライラしているらしい)

老人:
「『みぶんしょうめい』って、そんなの、なんで要るんだ? 持ってきてねーよ」(←こっちもこっちでイライラ)

で、中堅男性スタッフがまたもや参入:(←さっきよりさらに大きな声で)
運転免許証を持っていませんか? クルマの免許証を見せてください

老人:
「あぁ、免許証か。あるよ。はいこれ」

 

「このご老人は、『身分証明書』と言われて、住民票の写しのような何か特別なものを想像したのかもなぁ。そんな時にちょっと大きな声で、そして平易な表現に言い換えるだけで、お年寄りとのやり取りってスムーズに進んでいくんだなぁ」と感心していたら、残念ながら第3ラウンドが始まってしまいました。

 

女性スタッフ:(←さすがに、さっきまでよりは声を張ってました)
「御朝食がセットではないプランにお申し込みということでよろしかったでしょうか?」

老人:
「ゴチョウショクガセットって、なんだいそれ?」

女性スタッフ:
「御朝食券が付いていないプランで大丈夫でしょうか?」(←イライラMAXな感じで)

老人:
「ゴチョウショクケンって、よく分かんねーよ…」(←背後で聞いていて、私もさすがにいささか気の毒になってきました)

すると、中堅スタッフが三たび登場:(←担当変わってあげればいいのに…)
朝ごはんは、どうしますか?!

老人:
「あぁ、朝メシか。いらねーいらねー。大丈夫だ。気にかけてくれてありがとう」

 

このご老人は、全く悪気などありませんし、ちょっと耳が遠いことを除けばいたって明晰な判断ができる方なのですが、専門用語ふうな(ふだん聞き慣れない)響きのワードに拒否反応を示していただけのようにも思われます。
(年齢に関係なく、そういう人って少なくないと思います。自分にもその体質が少なからず備わっているような気がしますし)

 

「誓約書に署名」でなく「この紙に名前を書く」。

「身分証明書」でなく「免許証」。

そして「御朝食」ではなく「朝ごはん」。

マニュアルにたとえそう書いてあったとしても、その通りでは伝わらない人にどう言い換えたら理解してもらえるのか。

これを瞬時に考え、適切な語彙に変換できる人って、今やそれだけで素晴らしい才能なのかもしれません。

「当ホテルでは、御朝食を召し上がっていただくためには有料の御朝食券が必要です。お客様が申し込まれた宿泊プランは、その御朝食券が付帯しない内容となっています。もちろん、別途追加料金を頂ければ、今ここでお付けすることもできますが、いかがなさいますか?」というのが最も正確なのでしょうが、あのご老人に対してはこれでは絶対伝わるはずもなく、「朝ごはんは、どうしますか?」が最適解だったわけです。

 

以上、なんのオチもなく、「だからどうした?」という感じですが、自分もそういう機転のきく人間でありたいと思わされたエピソードでした。


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