昨日(10月26日)、臨時国会での所信表明演説を終えた菅義偉内閣総理大臣が、NHK『ニュースウォッチ9』に生出演し、様々な政策をテレビを通じて自ら説明されていました。
もちろん、いわゆる「日本学術会議の任命拒否」問題についても触れていらっしゃったわけです。
「学術会議が新規会員として推薦してきた105名のうち、6名を任命しなかった件」については、これまでも政府・自民党の「菅総理以外の人たち」から、「『総合的・俯瞰的』に判断したと総理が言ってるじゃないか」とか「人事の理由って、言えることと言えないことがあるだあろ」とか「そもそも学術会議のあり方が問題なので、今回の出来事はむしろいい機会」など、応援なのか足を引っ張っているのかよく分からないコメントが続出しましたが、ようやく昨晩になって、初めて菅総理みずからの説明を聞かせていただきました。
ご発言を再録してみます。(カッコ内は私の捕捉です)
まずは本件の「そもそも論」から。
- 日本学術会議は、年間10億円の国の予算を使う政府の機関である。
- よって、私が会員を任命すると彼らは公務員になる。
- 会員の人選については「総合的・俯瞰的」と言ってきたが「幅広く客観的に」と意味合いもある。
- 政府に「総合技術会議(おそらく、現在の総合科学技術・イノベーション会議の前身である科学技術会議を指すものと思われます)」というのがあって、そこから学術会議の会員選出の方法について、意見具申がある。
- 学術会議の会員は、民間出身者・若手研究者・地方の大学などから、多様性をもって選任されるべき。
- 学術会議には選考委員会があるが、「(まもなく任期を終える)現在の会員が、後任の会員を推薦することができる仕組み」になっている。
- 結果的に(会員が)一部の大学に偏っているのが客観的な事実。
- こうしたことから、推薦された人を、前例を踏襲して任命していいのかどうか迷った結果として、このような対応をさせていただいた。
- (学術会議の)梶田隆章会長とは、「国民の皆さんに理解をされる団体になるのが大事」というところで一致している。
ということで、政府・自民党サイドだけでなく、菅総理ご本人も「そもそも学術会議のあり方・会員の選び方が問題なのだ」という認識のようです。
で、当然キャスターから「任命しない理由が『総合的・俯瞰的な判断』だけだと分かりにくいのでは?」とツッコまれ、以下の発言となります。↓
- 105人について、学術会議の方で選考して持ってきちゃうんです。
- それを(私は)追認するだけなんです。
- 政府として(学術会議に)関与をして、責任を取る必要がある。
- 「どういう理由で(任命しなかったのか)」というよりも、全体として各分野、民間の人や若い人が極端に少ない。
- 誰かがもう一度、組織全体の見直しをしなきゃいけない時期じゃないかなと思っている。
総理は「学術会議側が選考して持ってきちゃうんです」っておっしゃってますが、日本学術会議法には、「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を(学術会議側が)選考して、内閣総理大臣に推薦するものとする」と定められているので、これで正しいんだと思うのですが。
もし、それがイヤなら、まず法律を変えていただくべきかと…。
さらにキャスターが「“前例踏襲”しないのなら、それなりの説明が欲しいという国民の声があるが?」と尋ねたところ、こんな回答が。↓
- (説明説明と言うけど)説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。
- 105人の人を学術会議が推薦してきたのを、政府が今「追認しろ」って言われているわけですから。そうですよね?
- 民間出身者、若い人、地方の大学の中から満遍なく選んで欲しい。出身大学なんか見ると、限られている。
- 現職の会員が推薦できる仕組みが果たしていいのかどうか。これだと選考委員会があっても自分に近い人が後任になってしまう。
- そうしたことを改革する必要があると思う。
繰り返しの発言が目立ちましたけれど、「選び方に問題がある」という想いは十分伝わってきました。
加えて、「政府が今『追認しろ』って言われているわけですから。そうですよね?」の部分は、半ギレ気味になっていらっしゃって、見どころのひとつだったかと思います。
「日本学術会議法」の第7条に、たとえば以下のようなことが定められています。
- 会員は210名。
→ 現在、6名の欠員が発生中。これってシンプルに“違法状態”だと思います。 - 研究・業績が優れている科学者を学術会議が選考して、総理大臣に推薦する。そして総理が任命する。
→ 手続き上、「選考して持ってきちゃう」で合っています。 - 会員の任期は6年。3年ごとに半数(105名)を入れ替え任命する。
→ 今回は、99名しか任命していないので、こちらも法律に違反しているんじゃないかと…。 - 会員は、70歳になったら辞める。
→ 確かに総理のおっしゃるように「若い会員は少ない」のかもしれませんが、国会議員と違って(←あ、皮肉。)「70歳以上の高齢メンバー」もいないわけです。
とまぁ、最後の「70歳」は蛇足ではありましたが、いずれにせよ、菅総理が6名を任命しなかったことで、法律違反状態が生まれてしまったと言わざるを得ないんじゃないでしょうか。
しかも、その違法状態を菅さん自身が特に問題視している様子はありませんし、そういう判断をした理由については「総合的・俯瞰的な選考になっていない。具体的には、若くない・民間じゃない・地方出身じゃない」としかおっしゃっていないのです。
となると、会員数を“適法状態”にするためには、学術会議が“別の6名”を選考して再度総理に推薦しなければなりません。
しかし、菅総理に認めてもらうためには「若くて、民間で、地方出身の要件を満たす人の中から『総合的・俯瞰的』に選ぶ」必要があります。
よって、仮に「地方大学卒業の35歳で、家電メーカー勤務の超天才エンジニア」を推薦したとしても、「これなら総合的・俯瞰的にOKだ」と判断していただけるかどうかは、引き続きはっきりしないわけです。
そもそも、会社の社長が新卒採用の最終面接の段になってから「なんでこんなのしか残ってないんだ? そもそも、どうして10人も採用するんだ? 5人じゃダメなのか? 俺と同郷の秋田出身者がいねーじゃねーか」みたいなことをあれこれ言い出すと、下々の社員としては単純に「この組織、大丈夫か?」と不安になるのですが(←ほぼこのままの実体験あり。w)、まぁ、それと似た騒動のような気がしてきました。
とはいえ、国家を運営する政府レベルの案件ですから、おそらく「任命しなかった6人」について、何らかの極秘情報をつかんでいるのかもしれません。
それがいかほど重大な問題なのかは、説明がないのでさっぱり分かりませんが、だからといって「単純に“人数レベルで違法な状態”を総理大臣が作り出してしまい、今も放置されている」のは、「法の支配に基づく秩序」を希求する我が国としては、いかがなものかと思います。
ということで「任命しなかった6人を正式に任命する」「学術会議に新たな6人を選考・推薦させる」「日本学術会議法(特に任命関連)を大至急改正する」のいずれになるのか、引き続き要注目です。
【関連リンク】
日本学術会議のオフィシャルサイト。↓
「日本学術会議法」(日本学術会議のサイトより)。↓
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