今回は、「BS-8Kスーパーハイビジョン本放送」を大画面で鑑賞してきたお話です。
場所は、「NHK放送博物館」の8Kシアターです。
(前回の「館内展示編」はこちら)
「8Kシアター」とは
NHK放送博物館の中2階にある施設で、「200インチの大型スクリーン」と「22.2マルチチャンネル音響」により、8Kスーパーハイビジョンの魅力が体験できるというのが触れ込みです。
現在の通常ハイビジョン放送の画素は2K(横1920×縦1080)ですが、8Kではそれが「横7680×縦4320」と、縦横ともに4倍の画素数となり、トータルで「今のハイビジョンテレビより16倍も画素数が多く、高精細映像が楽しめる」ことになっています。
また音響も、「22.2マルチチャンネル」、つまり、天井・聞く人の高さ・床面という高さの異なる3層に合計22個、さらに重低音専用を2個、合計24個のスピーカーを配置して、臨場感あるサウンドに浸れるのだそうです。
8Kシアターの広さは、バスケットボールコートの半分ぐらいでしょうか。
そこに椅子が100脚ぐらい並べられ、薄暗い室内で常時上映されているBS-8Kの本放送を自由に鑑賞できるようになっていました。
シアター入口には当日の番組表が貼り出されていますので、館内展示の見学の前後など、お好みのコンテンツの放送時間に合わせて入退室することができます。
ちなみに、シアター内で居眠りをしている(むしろ最初からそれが目的と思われる)お客様には、係員さんがやさしく声がけをしていらっしゃいました。
(入場無料なので、公立図書館同様、いろんなお客さんが来るんでしょうから、大変なお仕事だと思います)
8K放送を「チラ見」した感想
入館直後、そして館内展示見学途中でシアターを覗いた時には、紀行番組とNHK杯フィギュアスケートの放送が上映されていました。
両方とも、着席して数分程度拝見しましたが、まぁ、キレイといえばキレイだったと思います。
脇の方からシアター前方に進み、スクリーンを間近で見たりもしましたが、
「プロジェクターでテレビ放送を投影しているのに、映像がぼやけてもいないし、ギザギザした画素も目立たないし、これなら十分キレイだと見なせるのでしょう、きっと」
程度のキレイさと言ったら、雰囲気が伝わりますでしょうか?
200インチのスクリーンにこれほど接近しながら映像を観ることなど、通常はあり得ませんし、家庭内の2Kハイビジョンテレビだって、最低でも1・2メートル程度は離れて視聴するわけです。
そう考えると、わが家の50インチのテレビが知らぬ間に8Kに置き換わったとして、「おぉ、やっぱり違う! 高精細だ!」と実感できるかどうかは微妙だな、というのが正直な感想です。
ただし、自宅のテレビ視聴環境を、この専用シアターのように「8Kの200インチで、22.2マルチチャンネル音響で」というところまで作り込める人(アラブの王族とか)なら、最高に楽しめる放送サービスと言えるでしょう。
ちなみに、係員の方にうかがったところ、このシアターでは「4K用のプロジェクターを4台使って8K上映に対応させている」んだそうです。
画面を4分割して各プロジェクターごとに担当画面領域を割り振っているのかどうかなど、真相はよく分かりませんが、お金がかかっていることだけは確実です。
なお、一般家庭用としてはシャープさんが80インチの8K液晶テレビを販売しています。
お値段は、現在200万円前後。
スピーカーは本体内蔵の分だけなので、22.2マルチチャンネルのための音響機器は別途必要。うーむ。
現状の私では「欲しいかどうか」という自問すら起き得ない感じです。
8K本放送が始まる前と後
パンフレットでは、バラエティ感あふれる「他のチャンネルとは異なる独自編成」が謳われています。
また、番組表をチェックすると、今のところリピート放送がどうしても多めになってはおりますが、これも時間の問題で、8K収録のコンテンツも次第に増えていくんだと思います。
ここで、ふと、
「本放送が始まっても、同一番組が何度もリピートされているようだけど、本放送前には、この8Kシアターで一体何を上映していたのだろう?」
という疑問が湧いてきたので、ちょっと調べてみました。
例えば、こちらは今月(本放送開始後)のタイムテーブルです。
開館時間・休館日・シアター内イベントの都合以外は、本放送の番組表と同じ(のはず)です。
一見して「テレビの番組表」という雰囲気が伝わります。
これに対して、本放送開始前(11月)のタイムテーブルがこちら。
イベント開催日を除き、数種類のコンテンツが規則的に繰り返されており、お世辞にもテレビ番組表のようには見えません。
本放送が始まって一番嬉しいのは、この放送博物館の8Kシアター担当職員さんかもしれません。
8K放送で「Perfumeをガン見」した感想
さて、8Kシアターを何度か出入りしているうちに、数十分後に「Perfumeのスペシャルコンサートを8K収録した番組」が始まるとのこと。
デジタル技術をバリバリに使ったであろうこのライブ、さすがに興味が湧いたので、この番組だけは全編拝見することにしました。
で、感想ですが、Perfumeファンでなくても、これは一見の価値があります。
NHKホールの奥行きのあるステージをフルに使った演出。
大型のセットがステージ上を縦横無尽に動き回り、それに完璧に追随しながら投影されるプロジェクションマッピング。
曲に合わせて一糸乱れぬ編隊飛行を続ける数十台のドローン。
そして、完全にシンクロする3人のダンスパフォーマンス。
さらに、そのダンスにシンクロするライティング などなど。
この素晴らしいクオリティのライブが、8K収録されたことで、まさに「没入感」をもって映像を鑑賞することができたと思います。
撮影自体も、高精細を訴求するためだと思いますが、あえて細かいカット割りをせず、“引きの絵を長めに見せる”というスタイルが多用されており、それが「没入感の醸成」に貢献しておりました。
特にすごかったのは、200インチのスクリーン上に、Perfume3人の「全身が収まるアングルでの3ショット」が映った時です。
原寸大の人間に近いサイズで映し出される3人を見続けているうちに、「実際のライブ会場で、ステージから数メートル離れたスーパーS席で見ている」ような錯覚を覚えました。
逆に、「ステージの床板のあちこちに貼られたバミリテープ」など、見えなくていいものまでクッキリハッキリ映ってしまうのは、ちょっと興ざめでもあります。
あれだけハイテクな演出ができるのであれば、セットの移動もバミリなしでできるはずだと、勝手に期待させていただきます。
一方、顔のアップシーンももちろんありますが、こっちはこっちで、
「『あ〜ちゃん』ではなく、『西脇綾香さん』を見ている」
という、一種独特の気分に浸れます。
これはデメリットとして捉えるのではなく、
「引いたアングルの3ショットで『超絶パフォーマンスユニットのPerfume』を堪能し、顔のアップで『メンバーを演じる一個人の情熱』を感じる」
というように、「一粒で二度美味しい」ことをポジティブに受け止めるべきなのだと思います。
現在の地上波デジタル放送が始まった際には、
「全部ハイビジョン画質になるから女優のシワが丸見えになる。さぁ大変」
みたいな声もあったようですが、今回はさらに画質が16倍になったわけで、もはや何も包み隠せない事態だと言えるでしょう。
かくなる上は、顔のアップ画像からシワやシミを探される心配をするのではなく、
「『これがワタシよ。これがオレだぜ』と躍動する自分を、どうしたらアクティブなまま見せられるのか。ピュアなまま届けられるのか」
だけを追求した方が、生産的なんじゃないかと思う次第です。
そういう意味で最後に余談を付け加えます。
ブラウン管のカラーテレビが普及した時に使われていた「試験放送時の画質チェック用画像」として、“一輪の花を持って微笑む女性の画像”があったのをご存知でしょうか。
「ITE肌色チャート」とか「ITEテストチャート」と呼ばれているもので、今なら下記サイトで見ることができます。
これらの画像は、絵柄の特徴から「カーネーションガール」とも呼ばれているそうです。
(「テレビ カーネーションガール」でググると、他のパターンもいくつか出てきます)
これが「昭和&ブラウン管時代の『カーネーションガール』」なのだとしたら、やはりPerfumeは「平成(とその次)&8K時代の『カーネーションガール』」として最適なんだろうな、と放送を見ながら感じ入りました。
「一輪のカーネーション」に対して、「無数の映像とライティング」みたいな。
「静止して微笑む1人の女性」に対して、「完全なシンクロダンスで動き回る女性3人」みたいな。
8Kテレビになって、ようやくPerfumeのパフォーマンスに画質が追いついたということなのかもしれません。
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