こんな「NHKホールの休館」でした。

Architecture/建築
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先週、「東京・渋谷のNHKホールが、2021年3月から2022年6月(予定)まで改修工事のため休館になる」という報道がありました。

↓NHKさんからの公式プレスリリースはこちら。

クリックして20190409_02.pdfにアクセス

 

この報道では「2021年12月31日の紅白歌合戦は、別会場(東京国際フォーラム)で開催される」点に注目が集まりました。

私自身、

  • 2年後(回数的には3回先)の紅白開催が、なかば既定路線になっていること(→プレスリリース上では、あくまでも「予定」となってはいますが)
  • 東京国際フォーラムのホール予約は、「利用の2年前から受け付け」となっているのに、それより半年以上も早くNHKさんが予約できてしまっていること(→プレスリリースで代替予定会場として告知しているのですから、予約済みと考えるのが妥当でしょう)

という点から、改めて「あらゆる特例を可能にする紅白のパワー」を見せつけられたように感じた次第です。

 

そんなことより。

実は、この「NHKホールの改修」は、「NHK放送センター全体の建て替え」をめぐる紆余曲折の一部だということをご存知でしょうか。

 

ということで、ネット上の情報を元に、時系列でこの件の経緯をたどってみます。

 

2010年1月13日付け

朝日新聞さんが「NHK、放送センター建て替えへ ホールなどすべて一新」と報じています。

この報道から分かるポイントは、

  • 内々で「2016年東京五輪招致」と絡めた建て替え期待感があった。
  • 2009年10月、2016年五輪招致は落選。(開催地はリオデジャネイロへ)
  • 2009年11月、NHK内で建て替えのプロジェクトを立ち上げ、本格検討開始。
  • NHKホールも含め全て一新の方向。
  • スタジオなどをほかへ移すことも検討。
  • 詳細計画は5年以上かけて検討。
  • 建て替えは1千億円規模とみられる。

などであり、この時点ではNHKホールの建て替えも前提となっていたようです。(なんせ、見出しになるぐらいですから)

↓記事は、今ならこちらで確認できます。

ちなみに、JーCASTニュースさんの別記事によると、「2016年東京五輪招致と絡めた建て替え構想時には、『築地市場跡地への移転プランが持ち上がっていた』そうです。
築地市場、いろいろいわくのある土地ですね。

 

2015年1月29日付け

産経新聞さんが「NHK移転候補地に神宮前 NHKホールは残すことも検討」と報じました。

ポイントは、

  • 移転を伴う建て替えであること。
  • 移転先の有力候補地は、渋谷区神宮前地区。具体的には国連大学の西側一帯青山病院跡地などがある。
  • 土地所有者の東京都と交渉中。
  • 移転時には、NHKホールは現在地に残すことも検討。
  • 2015年3月末にも結論を出す方針。
  • 交渉決裂時は、現在地(渋谷区神南)での建て替えの可能性も。

ということで、5年前の報道から大きく変わったのは、「移転が前提」「NHKホールは移転しない」というあたりです。

この5年の間に、NHK内だけでなく、移転候補地の地主さん(東京都)ともいろんな駆け引きをしたんでしょうね。

↓記事は、今ならこちらで。

ちなみに同じ1月29日付のスポニチ報道によると「費用は、建物で1900億円、番組制作設備で1500億円、総額3400億円規模を想定し、この時点で既に1000億円の積み立てもしていた」ようです。すげーな、NHK。

 

2015年6月2日付け

前の報道から5ヶ月後。

再び産経新聞さん。今度は「NHK放送センター、現在地で建て替えへ 移転は断念」と報じています。

  • 東京都と交渉してきたが、移転には多額の費用が必要になるため、断念。

だそうです。

場所柄、高額な土地代をふっかけられたのかもしれませんよね。

 

2015年6月9日

産経さんの報道があったからでしょうか、その1週間後に、NHKさん自らが「現在地での建て替え」方針を公表しました。

NHK放送文化研究所の刊行物「放送研究と調査2015年8月号」では、

  • 現在地も含めて選定作業を進めてきた。
  • 地盤が強固で都内主要箇所へのアクセスがよいため、防災・減災報道の拠点としてふさわしい」「周辺には(NHKの)関連団体が多く,日常だけでなく災害時も協力が期待できる」ことなどから,現在地での建て替えを決定した。(←「防災・減災・耐震」を前面に押し出してます)
  • 現在の放送センターのすべての施設の建て替えを想定。(←「すべて」ですからNHKホールも含まれていたはず)

ということが報じられています。これがいわばNHKさんの公式見解だったのだと思います。

ちなみに、こちらのページには、各紙の報道を引用する形で「都側に支払う土地代がかさんだりするし、もう一つの候補地(代々木公園)だと建物の高さ制限が厳しかったため断念」したことが載っています。“防災一辺倒”の公式発表より説得力あります。

 

2016年2月15日付け

またもや産経新聞さん。(ネット上に残っているのは産経さんの記事だけだから?)

NHK放送センターの地方移転を! 自民・後藤田氏がびっくり提言 高市総務相『地方創生への貢献も大切だ…』」だそうです。

建て替えを最終的に認める前に(NHK予算と決算は国会での承認が必要)、与党同士の委員と大臣が連携して、NHKさんに「渋谷の一等地で建て替えできるからって、いい気になってんじゃねーぞ」的なクギを刺したということでしょうか。

「調子こいて、いつまでも反権力な報道してんじゃねーぞ、ごらぁ」みたいな恫喝だったとしたら、イヤですね…。

あー、こわ。

 

2016年8月30日

で、ついにこの日、NHKが「放送センター建替基本計画」を発表しました。

クリックして20160830.pdfにアクセス

これによると、

  • 2020年秋に着工。2036年に全体竣工。
  • 建物建設費だけで1700億円を見込む。
  • NHKホールは必要な補修を行いながら継続使用

となっています。

2015年1月報道では「建物1900億円」でしたから、どこかの誰かに配慮して費用を200億円圧縮したのかもしれません。

同じく2015年1月に報じられた「放送設備1500億円」については、「将来の設備開発や価格を見通すことができず、算定困難」として、この基本計画上では明らかにされていませんから、今後こっち側が膨らむ可能性もありますよね。

いずれにせよ、ここでNHKホールの継続使用が正式公表されたわけで、先週発表された「改修工事」プレスリリースは、この流れに沿ったものだと言えます。

 

2018年6月7日

この日の参議院総務委員会で、NHKの上田会長さんは、NHKホールの継続使用関連の質問に対してこんなふうに回答してます。

NHKホールは、本館と同じ昭和四十七年(1972年)に竣工いたしました。以来、紅白歌合戦やNHK交響楽団のコンサートの舞台として皆様に長く親しまれてまいりました。
このため、おととし(2016年)八月に公表いたしました基本計画では、ホールは継続使用とし、その期間についてはこれから検討するといたしておりました。

その一方で、老朽化が進んでいくことは間違いなく、いつまで使うのか、その後どうするのかなど、今後のホールの扱いについては幅広く検討していきたいと考えております。

つまり、「補修しながら継続使用していくけど、いつまで使って、その後どうするかは、これから考えますよ」とおっしゃっているのです。

どうってことない答弁にも思えますが、よく考えれば、今回建て替える他の施設だって、「竣工した後に、補修しながら使ってもいずれ老朽化は進むし、いつまで使うか・その後どうするのかは、これから考える」に決まっているわけでして、「NHKホールだけを継続使用」とした理由の説明にはなっておりません。

 

「理由になってねーよ」と憤慨しながら、さらにググってみたら、これよりも1年前(2017年3月16日)の「衆議院総務委員会」において、公明党の稲津委員(当時)がまさにドンピシャな質問をしておりました。

NHKの大橋理事(当時)の答弁とあわせて引用します。

【質問】
(前略)また、そもそもなぜこのNHKホールのみ継続使用と決めたのか、その理由をお伺いしたいと思います。

【答弁】
委員御指摘のNHKホールにつきましては、御指摘のとおり、昭和四十七年(1972年)の竣工以来、紅白歌合戦それからNHK交響楽団のコンサートの舞台として、大変皆様に親しんでいただいてきております。

こうしたこともありまして、去年(2016年)夏に公表した建てかえ基本計画には、ホールの建てかえ計画は盛り込みませんでした。

(中略)
ただ、そうは申しましても、完成から既にもう四十年以上が経過しているということもありまして、基本計画の中にも記してございますけれども、いつまで使うのか、その後どうするのかということにつきましては、こうした老朽化を受けまして今後検討をしていくということにしておりますので、皆様の御意見も伺いながら、今後のホールの扱いにつきましては引き続き幅広に検討してまいりたいというふうに考えております。

ということで、「今後どうするかは、今後考えるよ」はもちろんのこと、さっきの参議院のときよりもさらに明確に「継続使用の理由は『皆さんに親しまれているから』」という答弁になっていたことが分かります。

だったら、「今後検討します」みたいな思わせぶりなことは言わず、「耐震補強とか補修を繰り返しながら、この先もずっと使い続けます。だって親しまれてるんだもん」と言えばいいだけじゃないでしょうか。

 

以上すべてをひっくるめて勝手な想像を働かせると、

  • 当初から、ホールも含め、放送センターを丸ごと建て替えるのがNHKの悲願だった。
  • ところが、どこかから「国民から集めた受信料を使って放送センターを建て替えるにしちゃ、コストかけ過ぎ! もっと安く済ませろ!」みたいな圧力がかかった。
  • 建設費を圧縮する必要に迫られた。
  • しょうがないから、NHKホールの建て替えをいったんあきらめ、費用を圧縮することにした。
  • だけど、オール建て替えの夢は捨てきれない。
  • そこで「継続使用」と掲げつつも「今後は老朽化するし、その時は、ねっ?」と暗に将来の建て替えを匂わせながら、適宜ロビー活動を続けることにした。

まぁ、こんなストーリーなんじゃないかと。

 

真相はともかく。

NHKホールは当面継続使用されますが、放送センターの他の施設は、確実に建て替えられることになるわけです。

となると、私としては非常に気がかりな点があります。

実は、今回はそちらをメインとするはずでしたが、NHKホール休館の前置きが肥大化したため、「気がかりな点」は次回へ順延とさせていただこうかと思います。

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