前回、早期退職を考え始めたきっかけとして「まもなく50歳という人生の折り返し地点を迎えるので」ということをお伝えしましたが、それを実現するためにはいくつも考えるべきこと、やっておくべきことがあります。というか、ありました。
ここでは、その中でも自分が最もこだわった「円満退社にする」点を中心にまとめてみます。
円満に退社するのですから、辞める自分がスッキリした気持ちになるだけでなく、会社側にも「頑張れよ」と気持ちよく送り出してもらう必要があります。
そのためには、何よりも「自分の部下や同僚(場合によっては上司)が定年を待たずに退職したいと言い出したら、自分だったらどう思うか。どう対処するか」を想像することが大事です。
ただでさえ人手が足りない。
「働き方改革」とやらで無茶な残業をさせることもできない。
人員が減ったとして、いつ補充がされるかも分からない。
補充されたとして、新しいメンバーが戦力になるかどうかは未知数。
なのに業務計画は粛々と遂行していかなければならない。
そんな環境下で、気心が知れた仲間を失うわけですから、「あ、そう。辞めるんだ。いつ? 来月いっぱい? 分かった。それまではこれまで通り仕事よろしくね」などとドライに対応できるわけがありません。
「管理職のお作法マニュアル本」などを読むと「辞めたい人間の話を親身になって聞くところから始めましょう」と書かれていたりもしますが、これまでビジネスライクな接点しかなかった部下や同僚と、辞意を表明された日を境に密なコミュニケーションをとり始めるというのも不自然だったりします。
「辞めるんだから、あとのことなど知ったことではない」と考える人もいるでしょうが、そのような姿勢は絶対相手に伝わってしまい、円満退社の実現は困難になる一方です。
自分が辞めたら、上司のAさんはどう思うだろう。同期のBは? 部下のC君は?
日頃から関わり合いの多い人や直属関係にある人とは、たとえ気心が知れていなくても、ビジネスライクな付き合いしかなかったとしても「相手の気持ち」をくみながら(今時の流行り言葉でいえば「忖度」しながらw)話を進めていくべきです。
とはいえ、対「部下・後輩」については、自分の権威にモノを言わせて多少強引な説明・説得も可能かも知れません。
また、対「同僚・同期」においては「競争相手が減るから、ラッキー」ぐらいにしか思わない人も少なくないので、さほど労力をかけずに済むこともあるでしょう。
そうなると、ポイントはやはり、対「上司」ということになります。
上司とあなたの関係によって多少の差はあるでしょうが、部下から辞意を表明された上司の心情はおよそ以下のようなものになるかと思います。
「ここまで仲良くやってきたのに、どうしてもっと付き合ってくれないのか」
「公私ともに相性も良かったのに、さびしいじゃねーかよ」
「この先もこの会社にいたら、もっと活躍してくれる人材なのに、お前にとっても、もったいないことになるじゃん」
「転職にせよ独立にせよ、こいつは新天地でうまくやっていけるのか?」
「辞意を撤回してくれればありがたいが、最終的には本人の気持ちを尊重してやるしかないか…」
この辺ぐらいだと、まだ「辞める本人のことを心配している」トーンが強く、退職する側としても申し訳ないという気持ちを抱きますよね。
ただ、上司も人の子ですから、中には、
「かわいがってきたのに、それをこいつは恩を仇で返すのか?」
「これまでこいつに投資してきた経済的・物的・人的コストを、まだ回収しきれていないのに、もう辞めるってか?」
「まさか、競合の会社に転職して、結果としてウチの会社のジャマをするんじゃないだろうな?」
「自分の考えてきた組織運営構想が狂ってしまう。組み直すのメンドーじゃねーかよ」
「自分の人心掌握能力に対してケチがつくかも。自分の評価にも影響してくるかもしれない。まずいな、こりゃ」
「実務において大勢に影響はなさそうだから、とりあえず遺留しとくぐらいでいいかな」
「あ、やっと辞めてくれるのね。正直、助かったわ」
という上司本位・会社本位な思いを抱く人もいるでしょう。
しかもややこしい(そして興味深い)のは、上司によってポジティブな気持ちになる人とネガティブな気持ちになる人が分かれるだけではなく、往々にして同一の上司がポジティブな印象とネガティブな印象の双方を持ってしまうことです。
雇用の流動化とかキャリア形成の複線化とか、世間ではいろいろ言われてはいますが、今の日本の企業文化においては、そのくらい「自分より若い人間(=部下)が先に辞めていく」ことは心がザワつくことなのだと思います。
(私の在職中にも、何人かの部下がいろんな理由で辞めていきましたが、その都度自分の心がザワつきましたし…)
このように、人間(特に上司)の気持ちは複雑に形成されていますし、時間とともにポジティブからネガティブへと(逆もあります)変化していきます。
それゆえに、いかに「辞めるのは自分」であっても円満退社のためには「相手の立場で考える」必要があると考えます。
逆に言えば、「相手の立場で考えられない人」には円満退社は難しいことかもしれません。
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