きっかけとなった新聞報道
1月26日付の日本経済新聞の紙面ならびに電子版に、こんな見出しの記事が載っていました。
『年金開始、75歳も選択肢 厚労省検討
毎月の受取額は2倍、高齢者就労の呼び水に』
簡単にいうと、
「年金の受け取り開始年齢を、75歳まで繰り下げられるようにします。その分、もらえる年金を増やしてあげます」
という記事です。
記事のポイント
私が気になった部分を中心に、箇条書きで要約してみます。
- 厚生労働省が、公的年金の受給(受け取り)開始年齢を、現行の70歳開始上限から75歳まで繰り下げられるよう、検討を始めた。
- 毎月の年金額は、65歳開始に比べて2倍程度とする方向。
- そもそも今のルールでは、65歳よりも後ろ倒しして受け取ると、年金額は1カ月あたり0.7%ずつ増えていく。
- その結果、70歳まで遅らせれば42%増える計算。
- 今回の改革で「受給開始を70歳超に繰り下げる場合は増額率を70歳までよりも引き上げ、年金額を上乗せするインセンティブをつける」方向。
- 例えば増額率を1カ月あたり0.8%にすると、75歳まで受給開始年齢を後ろ倒しした場合にもらえる年金額は基準額から1.9倍に増える。
だそうです。
記事の中には、
「働く高齢者を増やす呼び水にし、元気な高齢者に社会保障を支える側に回ってもらうのが狙い」
だという解説も載っていましたが、
「75歳になっても働ける奴は働け。できれば、死ぬ直前まで働いて年金保険料を納めろ。65歳になった瞬間から、額面通り年金なんかもらってるんじゃねーぞ」
という政府の思惑が透けて見えるので、既に早期リタイアしている身としては、読んでいてかなり複雑な心境になりました。
で、結局、どのくらい増えるのか?
また、「70歳超まで繰り下げた場合の上乗せインセンティブ」がまだ決まっていないはずなのに、
「例えば増額率を1カ月あたり0.8%にすると」
と、70歳までの「0.7%」に勝手に0.1ポイント加算しているのも、よく分かりません。
そして、この「例えば」と例示された0.8%を使って計算した結果、「75歳まで受給を繰り下げると、1.9倍になる」という話らしいのです。
さらに、混乱させてくれるのは、記事中のこのグラフです。
このグラフでは、「75歳から受給」の場合、「+84% +上乗せ」となっています。
つまり、この記事に中には、「制度が改革されて、75歳まで受給を繰り下げた場合の増額率」として、
「2倍」(←見出しより)
「1.9倍」(←本文より)
「+84% +上乗せ」(←グラフより)
という、3種類の数字が示されているのです。
受け取り総額で考えれば、これはけっこう大きな開きではないかと思いますが…。
しかも、この増額率試算は、
「現行が『1カ月繰り下げるごとに+0.7%』だし、厚労省が『上乗せインセンティブ』」と言ってる以上、最低でも0.1ポイントは上乗せされるんじゃね?」
という日経さんの予想で出てきた「0.8%」を用いて計算されているんだと思われます。
つまり、
「仮に増額率が予想通り0.8%に決定したとすれば、だいたい2倍前後はもらえる」
という、かなり憶測の混じった、漠然とした話だと言わざるを得ません。
厚労省が提案してくる上乗せインセンティブが、フタを開けてみたら「+0.05%」だったら、どうするんでしょうか。
それとも日経さんは、文中では「例えば」と濁しつつも、既に厚労省側から、
「増額率は0.8%にします」
と耳打ちでもされたのでしょうか。
もしくは、この記事自体が、世論の反応を探るための「観測気球」なのかもしれませんが。
実際に「受給繰り下げ」をしている人は?
ちなみに、年金の受給開始を「基準の65歳よりも後ろに繰り下げ」ている人は、受給者全体のうち1.4%しかいません。
逆に、「65歳よりも前に繰り上げ」て、その分(1カ月あたり0.5%ずつ)減額された形で受け取っている人は34.1%もいるそうです。
(いずれも厚生労働省の『厚生年金保険・国民年金事業年報 平成28年度 結果の概要』の46ページ目・表50より。この省庁の統計データを真に受けていいのかどうか、今となっては微妙ですが…)
つまり、これほどまでに人気のない「受給開始年齢の繰り下げ」を、現在の「70歳上限」から「75歳上限」にしようというのですから、年金財政は、やはりかなり厳しいのでしょう。
「働ける人は65歳を超えても働こう」
「会社は従業員を70歳まで雇用しよう」
「高齢者の定義を75歳以上に見直そう」(by老年学会)
などの働きかけも含め、「なるべく年金の支給を遅らせよう運動」は、今後もあの手この手で続くんだと思います。
で、自分はどうするか
そんな中、既に50歳代前半で早期退職・早期リタイアしてしまった私としては、日経さんが報じた「75歳までの年金繰り下げ案」が実現した場合、それを受け入れたら得になるのか損するのか、しっかり見極めておく必要があります。
ということで、具体的にシミュレーションしてみることにします。
詳しくは、次回に。
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