先月末、仕事の関係で出かけていた都内某所(城北方面です)でぽっかり時間が空いたため、出先の駅前で見つけた理容店で髪を切ることにしました。
※ここ2〜3年、私はあえて「行きつけの床屋さん」を作らないことにしています。(以前通っていた店が廃業してからこのかた、なかなか気に入る店に出会えていないということです)
※よって、この時の理容店も初訪問です。
で、このとき入店したのは、一人だけで営業しているお店であり、店主1名 vs 客1名というミニマムな環境で、しかも当方が一見(いちげん)の客なので愛想よく振る舞って“あわよくばリピーターになってもらいたい”という想いがあったのだと思いますが、店主さんはいろんなことを教えてくれました。例えば、こんな感じで。↓
「昨年春の緊急事態宣言のときは、この駅前商店街もすっかり静まり返り、お客さんもいなくなった」
「それを機に、地元の理容業の組合でもいろんな勉強をして、感染対策に力を入れるようになった」
「そういう会合は全てリモートでやっているので、自分はコロナ禍以降、この街の外に出かけずに済んでいる(≒感染機会を減らすように努めている)」
「理容業は、お客さんのすぐ横に立って1時間近く濃厚接触してしまう仕事だから、感染予防こそが勝負」
おそらく、「これだけ感染予防対策を実践しているので、これからも安心して通って来てほしい」というアピールもあったとは思いますが、実際、店主さんはマスクに加えてゴム手袋まで装着し、ハサミやクシやカミソリなどを使い終わるたびにアルコールスプレーで念入りに消毒していましたので、日頃からしっかりとコロナ対策をしていることはこちらにも十分伝わって来ました。
私が最も感心したのは、“お店から専用マスクを渡され、客はそれを装着したままカットをしてもらう”という点です。
耳まわりをカットする場合には片側だけマスクひもを外し、シェービング時にのみ全て外すという念の入れようで、正直「ここまでやるのかぁ、すげーなー」と思わずにはいられませんでした。
ところが、私が「ここまでやるなんて、徹底してますね。客側としても安心です」と賛辞を述べた後から、次第に店主と私の間に溝が生じ始めました。
私:「ここまでやるなんて、徹底してますね。客側としても安心です」
店主:「ありがとうございます。でもこれって、私やお客さんのどちらかの感染が万が一発覚した時に、お互いを守ることになるんですよ」
私:「と言いますと?」
店:「例えば、私が数日後に陽性者となったとしますよね? すると保健所とかから行動履歴を調べられるんですけど、お互いがマスクをしていればお客さん側は“濃厚接触者”とみなされずに済むんです」
私:「へぇ〜、そういうもんなんですね〜」
店:「だから、お客さん側までPCR検査を受けなくても済むんです」
私:「あ〜、なるほど。でも私なんか、もしそういうシチュエーションになったら、濃厚接触者とみなされなくても、むしろPCR検査を進んで受けさせてもらって安心したいですけどね 笑」
店:「ははは。それで陰性なら安心できますけど、陽性になったら大変じゃないですか 笑」
私:「それはそうですけど、陽性でも無症状だったりすると、自分でも知らないうちに周りにうつしちゃうかもしれませんから、むしろちゃんと陽性と分かって、隔離とか入院させてもらったほうが感染拡大が少しでも防げると思うんですけどね」
店:「でも逆にね、“お客さんにマスクさせないままカット → 数日後にその客の陽性が判明”となったら、私は濃厚接触者に認定されて、こちらがPCR検査受けなきゃいけなくなるんです。さらに店を臨時休業して、高い金かけて店内消毒して、1週間自主隔離とかになるんですよ」
私:「なるほど。それは大変ですね…」
店:「そうなれば、お客さんの勤め先だって同じことで、『誰か濃厚感染者いないか?』とか騒ぎになって、オフィス内の消毒とかになるんですよ」
私:「はぁ…」(←話が込み入りそうなので、もはや「会社員じゃない」ことは伝えず)
店:「だから先日、このビルの1階に入っている居酒屋の若い店員にも言ったんです」
私:「何と言ったんですか?」
店:「彼が『最近、自費のPCR検査費用も安くなってきたし、俺の家の近所に検査キットの自動販売機も置かれたから、試しにやってみようかと思うんです』って言うから、『やめとけ』って言ったんですよ」
私:「え、どうしてですか?」
店:「だから、さっきの話と同じですよ。その若いヤツには『お前、もしそれで陽性が出たらどうする? お前のせいで居酒屋を臨時で閉めて、店を消毒して、他の店員も自主隔離になるんだよ。しかも、このビルの共用エレベーターとかそういう所まで全部消毒だし、もしかしたらウチみたいな他のフロアのテナントにまで影響出ちゃうんだからね。お前、そうなったら責任取れんの? やめとけやめとけ』って言ったんですよ」
私:「はぁ…」
店:「しかも、それだけ大騒ぎになっても、『検査結果は実は偽陽性だった』ってこともあるわけですからねー。そうなったらもう、笑うに笑えませんよ。あ、“泣くに泣けない”かな。笑 とにかく困ったもんですよねー」
結局、この理容店の店主さんが考えているのは、おそらくこういうことなんだと思います。↓
- 理容店はもともと、厳しい衛生管理を課されている。
- 加えて、コロナの感染対策も徹底しているし、自分も他の街に出歩いたりしていない。
- だから、「自分の店」が感染源になることはない。ましてや自分がどこかからウィルスをもらってくることもない(はずだと思っている)。
- よって、最もリスクが高いのは、店にやって来る不特定多数の客である。
- そこで、客には入店時の体温測定・手指消毒に加えてマスクもしてもらうし、客に使った理容道具は徹底的に消毒する。
- そうやって気をつけていれば、自分が「客の濃厚接触者」になることはない。濃厚接触者にならなければPCR検査を受けなくても済むし、店も休まなくても済む。
- だから、他のテナント仲間の“安心したいがための気楽なPCR検査”には反対である。
私はこれまで、「世間にはPCR検査を受けたがらない人も結構多いらしい」というその理由が今ひとつ分からなかったのですが、客商売をやっている方々にはこういう事情があるんだということを初めて(←今ごろ?)実感しました。
とはいえ、「臨時休業のきっかけになりかねないから、PCR検査を忌避」するのって、やはりちょっと不健全のような気がしてしょうがありません。(というか、これじゃいつまで経ってもコロナなんて収束しないんじゃないでしょうか。ワクチンの幅広い接種もいつになるのかハッキリしませんし…)
であれば、「飲食業だけでなく、“客と濃厚接触せざるを得ない商売”の店には、最低でも月に1回は検査を受けてもらう。その費用は当然経費として認めるだけでなく、何らかの税制優遇もする。さらにもし店から感染者が出た場合には、休業補償は難しくても、せめて消毒費用は国が負担する」ぐらいのことをした方がいいんじゃないかと思います。
(これまでのような「感染が下火になった → GoToトラベルとGoToイート再開 → 感染再拡大 → GoToをストップ → 時短要請」みたいなことをただ繰り返しても結局、客商売の店が疲弊していくだけではないかと…)
と、久々にコロナネタを書かせていただきましたが、実は一番言いたかったのは、「日頃の衛生管理に加えていろんなコロナ感染対策してるのは分かったし、お互いこうしてマスクも着用してるけどさ、頼むからもう少し声のボリューム抑えてくれよ。できれば俺の顔のすぐ横でベラベラ喋りながらカットするの、やめてくんねーかな? >店主さん」ということだったりします。
どちら様も、くれぐれもご自愛ください。
おことわり
ここで紹介したのは、あくまでも私の実体験に基づくエピソードでありまして、これがそのまま「理容店全般でオフィシャルに実践されている感染予防対策・業界ルール」なのかどうかは、定かではありませんので、念のため。
関連リンク
理容店の業界団体である「全国理容生活衛生同業組合連合会」さんの公式サイト。↓
(公財)全国生活衛生営業指導センターさんによる「新型コロナウイルス支援ポータルサイト」。↓
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