最近、全録マシン(HDDレコーダー)の再生が追いつかず、今日になってようやく6月3日に放送されたNHKスペシャル『ブループラネット』を視聴できました。
イギリスBBCとの国際共同制作番組ですが、日本では今年の5月から7月にかけて毎月1本ずつオンエアされています。
NHKは同じくBBCとの国際共同制作で、2006年に『プラネットアース』、そして2016年には『プラネットアースII』という自然ドキュメンタリーを放送していましたが、公式サイトによると今回の『ブループラネット』は「『プラネットアースII』の海編」とのことなので、放送をずっと楽しみにしていました。
で、視聴の結果ですが、『プラネットアース』シリーズ同様、いやそれ以上に素晴らしい映像のオンパレードでした。
「いったい、どうやって撮ったの?」としか言いようのない海の表情、海洋生物の暮らしぶりが、これでもかというほど出て来ます。
7月の第3集(最終集)に向けて第1・2集もどこかでリピート放送されたりすると思いますので、ぜひご覧になることをお薦めします。
と、ここまで映像に関して全力で褒めさせていただきましたが、その代わりというか、それなのにというべきか、ここから先は、音についての違和感を表明させていただきます。
音楽は、数々の映画音楽を手がけたハンス・ジマーさんを起用するなど、申し分ありません。
問題は、海や生物たちなど、動きのある映像に添えられる「効果音(SE)」なのです。
この点は、BBCとの国際共同制作の先駆けである『プラネットアース』の頃から気になっておりまして、「これ、撮影時に同時録音した音声じゃなくて、後から足した音でしょ?」と思わざるを得ないようなSEが、とにかく多用されるのです。
「撮影時に同時録音した」音もゼロではないとは思います。
しかし、「こんな音、聞こえるハズないじゃん」というSEもいっぱい登場するのが、見ていてとても気になるのです。
たとえば、
キノコや植物の成長を早送りで(時間を短縮して)見せるシーンで聞こえる「ニュルニュル、ニョキニョキ」的な音。(プラネットアース、プラネットアースIIにて)
↑何時間・何日にもわたって撮影した映像を、時間を縮めて見せているのに、あたかもそのスピードで茎や枝が伸びているかのようなニョキニョキ音を被せるのは、どう考えてもウソだと思います。
さらに、
波が砕ける、動物が素早く動くなどの映像をスローモーションで見せる際に、あたかもそのスローな動きがリアルタイムで起きているかのような音を被せる。
(ブループラネットにて)
↑という、さっきと逆のパターンもあります。
「ザッパ〜ン」といいながら砕けた波の映像をスローモーションで再生したら、絶対に「ザッパ〜ン」とは聞こえないと思うのですが。
また、こんなパターンもありました。
アリのような超小型生物が、ジャングルの腐葉土の上を歩行するときなどに聞こえる「カサカサ、コソコソ」的な音。(プラネットアース、プラネットアースIIにて)
↑そりゃぁまぁ、実際にそういう音を立てながら歩っているかもしれませんし、超高感度のマイクで録音すれば、その音が拾えるのかもしれません。
しかし、そんな微かな音がハッキリクッキリと拾えたのであれば、ジャングル内に蔓延する、別の雑多な音(動物の鳴き声や風に揺れる木々の音など)のほうが、やかましいぐらいに聞こえてこないとおかしくないでしょうか。
加えて、
サンゴが一斉に産卵する時の「ポコッポコッ、ネチョッネチョッ」音。
↑時間の圧縮や伸長はなく、リアルタイムで再生されている映像っぽかったのですが、さっきのアリとは違い、産卵するサンゴに超高感度マイクを向けても、こんな産卵音はしないんじゃないでしょうか。
直感的には、アリの行進以上に無音に近いように思ったりしますけど。
というように、自然界を見事に捉えた超一流の映像にさらなる臨場感を持たせようと、映画の音響効果さながらにいろんな音声処理を施しているんだとは思いますが、まさに「過ぎたるは及ばざるが如し」で、私などはむしろ興ざめしてしまいます。
この音声加工を「NHK、BBCのどちらがやっているのか」ですが、イギリスBBCの「BBC earth」のサイトにあるプレビュー動画でも同様の音声が聞けますので、おそらくBBC側が手を下しているものと思われます。
最後に、関連して気づいたことなどをいくつか。
NHKは公式サイトにて番組名を『ブループラネット BLUE PLANET Ⅱ』というふうに、なぜか英語表記のほうにだけ「II」を付けて表記しています。
しかも、「ブループラネットは『プラネットアースII』の海編である」という解説文を載せ、「だから(英語表記では)『II』が付くのだ」と思わせるような工夫をしています。
「だったら日本語タイトルも素直に『ブループラネットII』にすればいいのに」と思ったのですが、本家「BBC earth」サイトによると、「II」とは別に、1作目としての『BLUE PLANET』という作品の存在が確認できます。
おそらく、この1作目を日本では放送していないために「日本語タイトルには『II』を付けられないけれど、英語タイトルには『II』を付けるしかない」という折衷案が出来上がったんでしょう、きっと。
だからどうした、という話ですけど、私としてはスッキリしました。w
さらに、本家「BBC earth」サイトを見ると、『プラネットアースI・II』や『ブループラネットI・II』以外にも、興味をそそる多種多様なコンテンツが存在していることが分かります。
ここ数年、WOWOWも「BBC earth」関連のコンテンツを放送してきていますが、これまでにWOWOWでもNHKでも見たことのない作品がたくさんありそうなので、どちらの局でも構いませんので、ぜひ日本でも拝見させていただきたいものです。
ついでに、「BBC earth」とは、イギリスの「BBC Worldwide」というテレビ番組制作会社が、大自然・博物学に特化させた作ったコンテンツブランドで、世界各地に配給されているようです。
またBBC Worldwide社は、現在「BBC Studios」という会社に統合されており、様々な映像コンテンツの制作・配給ビジネスを全世界に展開しているらしいです。
そう考えてみると、NHKの言う「国際共同制作」とは、一体何を意味するのでしょうか。
Nスペ上のクレジット表記を見ると、BBC以外にアメリカ(ただしBBC America)やフランス、中国などのテレビ局が「共同制作」として名を連ねていますが、「BBC earth」サイト上からは、『プラネットアース』や『ブループラネット』のシリーズが国際共同制作されていることを示す言及を見つけることができませんでした。
「取材協力」として日本人2名(おそらく生物学系の専門家)のお名前がクレジットされていましたが、撮影は3名とも外国人でしたし、前述の怪しい効果音を被せたのもBBC側のようですし、今ひとつ「国際共同制作」の場でNHKがどんな役割を担っていたのかがハッキリしません。
もしかすると「NHKは日本での放映権料に加えて制作費の一部をもBBCに支払い、撮影後にBBCから提供された映像にNHK側が日本語のナレーションや字幕などを施して完成させた日本版をオンエアする。さらに制作費の一部も支出(出資)しているので、番組が他国に売れたら、その出資額に応じた放映権料をNHKがもらえる」というビジネススキーム全体を指して、NHKでは「国際共同制作」と呼ぶのかもしれません。想像ですが。
ちなみにWOWOWが「BBC earth」シリーズ作品を放送する時には「共同制作」というような表記はしていないと思います。
それは単に「金を払って番組を買い付けてきただけだから」でしょう。
私はそれで十分だと思うのですが、NHKは番組を海外から単に調達するだけでなく、「金を払って海外のテレビ局(やプロダクション)に番組を作らせ、その放映権料も得る」という権利ビジネスを鋭意展開しているのかもしれません。
現に、前述のBBC Studios社のサイトにある部門構成・事業領域図を見ると、公共放送の先輩であるイギリスBBCが、いかに上手に商売していくか、苦心しているのが分かります。
同じ公共放送の弟分であるNHKも、このへんはぜひ見習いたいところなのでしょう。
ということで、今回も最後は「私の妄想」レベルの話になってしまいましたが、少なくともNHKの言う「国際共同制作」とは、私が思い描いていた「一緒に撮影して、一緒に徹夜で編集して、お互いの国で放送しようぜ! 反響があったら教えてくれよ!」のような牧歌的制作プロセスのことを指すのではなさそうです。
まぁ、制作の体制を問わず、見応えがあればそれでOKなんでしょうけれど。
だとしても、あの音声加工だけは、どうにかしていただきたいものです。
「早送り再生してあっという間に開花までたどり着いた植物」に、「ニュルニュル、ニョキニョキ」は、マズイでしょ、いくらなんでも。
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