こんな「スピーカーフォン越しの会話」でした。

by konmaru
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先日、外出先のカフェでパソコンで調べものをしていた時のことです。

私のすぐ隣の席に1人で座っていた60歳前後の男性挙動が大変気になってしまいました。

念のため申し上げておきますと、通常カフェに行った際、周囲の会話などに惑わされることのないように、私はイヤホン音楽を聴きながら作業や読書に集中することがほとんどでありまして、周囲で展開される会話を耳に入れることはありません。そもそも、たまたま隣に座った人のあれこれに首を突っ込みたくもありませんし。

ところが、この日はいつもとは全く異なり、隣の男性客のことが気になって仕方がありませんでした。

最初に気になったのは、彼の着席のしかたです。

壁際にある2人がけの席では「壁を背にした椅子」に座る人が圧倒的に多いと思うのですが、彼は「壁側を向いた椅子」に座っていたのです。

1人なのに不思議だな、とは思いましたが、この段階ではそれ以上の関心を持つことはありませんでした。

次に気になったのは、スマホで電話をかけるために彼が「手書きの電話番号メモ」を取り出して眺め出したことです。

70代後半になる私の母ですら、二つ折りケータイの電話帳機能を活用しています。

そんな母と比べても、「この人はまだ還暦程度なのに。しかもスマホケースの傷み具合からみてもスマホをかなり使い込んでいるらしいのに、なぜ紙の電話番号メモなのだろう」という点が気になったのです。

私が壁を背にして座り、彼が壁を向いて(つまり私の斜め正面に)座っていたため、彼の行動が目に入りやすかったという事情もありますが、他人さまを凝視するのも申し訳ありませんので、私はそれ以降、極力その男性に目を向けないようにしました。

ところがです。

その男性は、空間じゅうに響き渡るような音量で通話を始めたのです。

しかも、スピーカーフォンで。

たまたま私のイヤホンから流れていたのが静かな曲だったこともあり、彼と誰かの電話でのやり取りがバンバン耳に入って来てしまいました。

プルプルプル〜。(←スピーカーフォンなので、呼び出し音も普通に聞こえます)

ガチャ。(←先方が受話器を取ったようです)

先方「はい、内閣府◯◯室です」(←具体的な室名は聞き取れませんでした)

こんな「国の中枢機関」への通話を、スピーカーフォンでかけてしまっていいのか? と思った瞬間、私は無意識のうちにイヤホンの音楽を止めていました。

男「あ、わたくし、コタニユウスケ(←もちろん仮名です)と申します。最近の政治状況について心配な点がありましてお電話しました」

私はもう、パソコンの作業など手につきません。

先方「はぁ。はい。。どういったことでしょう」(←明らかに、全く気乗りしていませんが、取り乱すことはありません)

男「はい。安倍首相ですが、世論調査の内閣支持率は最近安定してきているようですが、首相の外交とかを見ていると、本当にうまくいっているのかというのが大変気になるのです」

先方「。。。 はい」(←相変わらず冷静です)

男「最近の私はYouTubeを見過ぎているからなのかもしれませんが、YouTubeでは安倍首相の政治を憂慮する動画がたくさんあるので、それで心配になりまして。そういう動画がたくさんあるのはご存知でしょうか」

先方「。。。 いえ、特には」

男「であれば、その状況をご報告しておいた方がいいかと思いますが、こちらでよろしかったのでしょうか」

先方「。。。 はい、まぁ、こちらで、今うかがっております」

男「そうですか、それであれば安心しました。今後も気になる点があれば、またこちらにご報告させていただきますので」

先方「。。。 はい、分かりました。ありがとうございました。失礼いたします。ガチャ」(←通話終了)

ちなみに、私の隣の男性客の話し方は、けっして高圧的なものではなく、たどたどしい中にも彼なりに礼儀をわきまえた喋り方だったように思います。

怒鳴り散らすような口調であれば、他の客からクレームもついたのでしょうが、幸か不幸か、彼の話し方はそうではなかったのです。(スピーカーフォンで通話すること自体がクレームになっても不思議ではありませんが、まぁそれはそれとして)

私は最初、「かなり先鋭的な政治信条をお持ちの人なのかも。  通話の途中で先方の発言に激昂し、銃刀などを取り出して暴れ出したらイヤだな」と不安だったのですが、どうやらその心配はなさそうです。

さて、内閣府への電話も無事終了し、私がホッとしたのも束の間、彼はまたどこかにスピーカーフォンで通話を始めました。

プルプルプル〜。(←応答なし)

彼はさらに電話番号メモを指でなぞり、すぐさま次の目標を見つけます。

プルプルプル〜、ガチャ。

先方「はい、◯◯(←名字)でございます」(←女性の声)

男「あ、◯◯△△先生(←フルネーム)のお宅でいらっしゃいますか」

書くのが怖いので伏字にしましたが、◯◯△△には、政権与党の幹部のお名前が入ります。

先方「。。。 はい。 恐れ入りますがどちら様でいらっしゃいますか?」

男「わたくし、コタニユウスケ(←仮名です)と申しまして、××党の××先生のご紹介などで、以前◯◯先生にお会いしたことがありまして、云々」(←与党幹部との(けっして太くない)接点をあれこれ説明)

先方「。。。 さようですか。 で、ご用件は?」(←恐る恐るながらも、丁寧な口調)

男「はい、最近の与党はじめ、内閣の動向や外交戦略について…(以下略)」

先方「。。。 さようですか。でしたら、こちらは自宅でございますので、ぜひ事務所の方にご連絡してみていただけませんでしょうか」

男「はい、先ほど事務所にかけてみたのですが、もうどなたもお出にならなかったもので。(←さっきのノーアンサーが、事務所あての電話だったようです)  それで夜分遅くに失礼を承知でご自宅にお電話させていただきました。先生はもうお帰りでしょうか」(←彼なりの礼儀ある姿勢は継続)

先方「。。。 先生は、まだ、お帰りになっては、おりません。大変恐縮ですが、明朝であれば事務所のほうで対応可能かと思いますので、ぜひそちらに改めてご連絡いただけますでしょうか」

男「事務所は、東京の事務所でしょうか。それとも◯◯県(←与党幹部の選挙区)の事務所のほうがよろしいでしょうか。番号はどちらも存じ上げていますので」

先方「。。。 そうですね、どちらの事務所でも、大丈夫かと、思います」

男「分かりました。夜分にも関わらず、ご親切にありがとうございました。失礼いたします。ガチャ」(←通話終了)

先方の応対者は、奥様ではなく、おそらく家政婦さんなのだとは思いますが、やはり一家の主人の立場を考えてのことなのでしょう、実に丁寧にやり取りされていて、私はいたく感心させられました。

で、この男のスピーカーフォンアタックは、まだ続きます。今度はどこにかけるつもりなのでしょう。

プルプルプル〜、ガチャ。

自動音声「The number you are calling, ×××〜」(←英語です)

プルプルプル〜、ガチャ。(←どこかに転送されたようです)

先方「This is White house. ◯◯ speaking. May I help you?」(←男性の声)

男はついに、直接外交へ踏み込んだようです。

それにしても、ホワイトハウスの電話番号まで書いてある彼の手書き電話番号メモ、スゴ過ぎます。ちょっと欲しくなりました。

彼は、かなりたどたどしくてブロークンなイングリッシュで会話を始めました。そのため、男も先方も何を言っているのか分からない部分が多々ありましたが、聞き取れた範囲で(意訳込みで)日本語で再現してみます。

男「ハロー、マイネームイズ、ユウスケ。(←仮名です)米軍に対して協力して欲しいことがあってお電話しました」

先方「。。。 オーケー。では名前をもう一度お願いします。スペルは?」

男「ワイ、ユー、ユー、エス、ユー、ケー、イー」

先方「オーケー。ラストネームも下さい」

男「コタニ。ケー、オー、ティー、エー、エヌ、アイ。コタニ」

このスペル告知も実は一筋縄ではいかず、男は何度も何度も言い間違えては訂正を繰り返していました。

先方「オーケー。ソーシャルセキュリティナンバー(←社会保障番号。アメリカ全国民をはじめ、永住者や外国人就労者にも付与される総背番号)もプリーズ」

男「ソーリー、持っていません

(この後、生年月日も訊ねられていましたが、割愛します)

先方「。。。 オーケー。 で、米軍に協力して欲しいとは、どういったことで?」

ここから先、男の英語はさらにブロークン度を増し、「オレゴン州、エクアドル、ジャッキー、メールアドレス、夫の名前は◯◯」といった単語やフレーズが繰り返し登場します。

このあとの彼の一人語りは5分ほど続いたのですが、どうも推測するに、

「以前オレゴン州に住んでいた友人のジャッキーさんがエクアドルに行ったあと、メールでも連絡がつかなくなってしまった。彼女の米軍に勤めているので、そのツテで何とか探してほしいのだが、米軍に頼んでも信じてもらえず、彼らはまともに取り合ってくれない。そこで今日はホワイトハウスに直談判している」

ということのようです。

先方のホワイトハウス担当者は、

「ジャッキーさんのフルネームや、夫の米軍での所属先が分からなければどうしようもないです。そもそもジャッキーさんとは一体誰なのですか。その程度の情報では、ホワイトハウスとしてできることは残念ながらありません」

という、至極真っ当な回答を、噛んで含むように説明していましたが、横でスピーカー越しで聞いている私も、確かにこれ以外の応対のしようはないだろうという印象を持ちました。(このテの電話をするなら、普通はアメリカの警察とかだと思うのですが)

すると男は、

「分かりました。では改めて米軍に問い合わせてみます。問い合わせ先の電話番号は分かってます。お忙しいのに親切に対応してくれて、サンキュー フォー ユア カインドネス。ゴッド ブレス ユー。シーユー。バイバーイ」

などと努めてアメリカ流の挨拶をしようと奮闘してから電話を切りました。

この後、彼はカフェを去ったのですが、気づいてみるとカフェじゅうの客が彼の通話に聞き入っていたようです。

まぁ、スピーカーフォンで、これだけ怪しげな会話を展開していたのですから、「気にするな。興味を持つな」というほうが、どだいムリというものでしょう。

彼が去り、静寂を取り戻した店内で再びイヤホンの音楽をオンにしながら、私は「内閣府・与党幹部宅・ホワイトハウス」それぞれの電話応対の素晴らしさを改めて噛みしめていました。

応対した人たちはいずれも、けっして取り乱したり、ブチ切れたり、悪態をついたり、邪険に扱ったりすることなく、冷静かつ丁寧に接していました。

その上で考えると、こういった国の中枢機関権力者のもとには、似たような電話メール、さらには直接訪問頻繁にあるのだろうと思います。

それらにいちいち右往左往していては、日々の仕事などマトモに進まないのでしょうし、こういった不意のコンタクトに応対すること自体もまた、仕事の一部と化しているのでしょう。

応対する側にしてみれば、不本意かもしれませんが。

世の中には、いろんな人がいて、いろんな仕事のやり方があることを痛感した次第です。

そして、これからカフェで過ごす際には、イヤホンのボリュームをもっと上げておこうと思います。

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