誰かに雇用されて収入を得るサラリーマンには、ほとんどの場合定年があります。
典型的なのは、「55歳で管理職からはずれ(役職定年)、60歳で定年退職になるけど、段階的に65歳までの雇用が義務化されたので60歳から5年間は嘱託契約として勤める」みたいなパターンかと思います。
役職定年で手当が大きく下がり、60歳以降でさらに収入が下がるわけですが、それでも65歳まで(将来的には70歳までと言われています)給与をいただけるのですから、誰かに雇われることに対して特に抵抗のない人(基本、私もそうでした)にとっては人生設計が立てやすい働き方と言えるでしょう。
ところが「早期退職」するとなると、その安定した(ラクな)生き方・働き方を、当初の予定より早めに切り上げてしまうことになります。
ある意味これは「バクチ」ですから、それに勝つぐらいに「退職後にすること・すべきこと」が明確になっている必要があります。
「すること・すべきこと」を明確にしておくのは、自分のためだけに必要なのではありません。
周囲の人たちに対する説明・説得時にも必要になってくるのです。
私の場合、「人生が100年だとしたら、50歳になったら折り返し地点じゃん」というのが「退職を考えるきっかけ」でした。
とはいえ、「50歳になるから退職する。そのあと具体的に何をするかは未定」という説明だけで周囲が納得するはずもなかったので、なるべく理解されやすい「早期退職後にやること」を設定して提示する必要がありました。
以下は、そのときに考えた「やること」のパターンです。
採用したもの、しなかったもの、考えただけで終わったものなど混在していますが、ご紹介してみます。
パターン1:「転職します」
ある意味、もっともオーソドックスで、かつ周囲の人間が理解しやすいパターンです。
「早期退職後も食っていかなきゃいけないだろ?
そのためには収入がいるよな?
ってことは、違う職場に勤めるってことだよな?」
という前提に支配されている人にとっては、おそらくこれ以外の選択肢は想像だにできないと思います。
しかし私の場合は、
「50歳になろうというオヤジを雇ってくれる企業を探し出す苦労は並大抵ではない」
↓
「そんな苦労をするぐらいなら、それなりの役職と待遇を与えられている今の職場にいた方がいい」
↓
「そもそも、今の職場がイヤで辞めるわけじゃないのに、なぜ早期退職後にわざわざ別の企業で再就職しなければならないの?」
というコンディションでしたから「早期退職の目的は、転職です」という説明にはしませんでした。(実際、転職する気はまったくありませんでしたし)
パターン2:「独立します」
プロフェッショナル意識が高く、自分の才能・実績に自信があり、活躍の場を今よりも広げられると考える人(広げてほしいと周囲から請われている人)は、「早期リタイアして、独立」を目指すこともあるでしょう。
例えば同じパンを焼く仕事でも、「誰かに雇用されて誰かの指示を受けながらパンを焼く」から、「自分の判断だけで焼きたいパンを焼く」へと変わるわけですから、自由度が高まると同時に責任も重くなります。
なんせ「焼きたくなければ焼かない自由」もある代わりに「サボって誰からもお金をいただけずに食いっぱぐれるのも自分のせい」なのですから。
そもそも「うまいパンを焼く能力も才能もない」のに、「他人に『とにかくメロンパンだけ作れ』と命令されたくない」だけの理由で独立したとしても、パン屋が繁盛する確率は極めて低いでしょうから、独立には相当の覚悟と準備が必要だと思います。
もちろん、私にはそこまでの覚悟も勇気もありませんでした。
付け加えると、「独立を持ち出して退職の意思表明できたらカッコいいな」とも思いませんでしたし、前職はパン職人でもありません。
パターン3:「親族の家業を継ぎます」
「親・兄弟・親戚が経営する事業を継いだり手伝ったりするために、自分が早期退職をする」というのは、あまり前向きな感じがしません。
当初からその予定があったのなら、そもそもなぜサラリーマンになったのかというあたりが問われるからです。
「実家がパン屋なので、製パンメーカーに就職して修行中。いずれ実家のパン屋に戻るのは今の上司も知っている」ということならまだ分かりますが、「食品専門商社の企画職を辞めて、実家のコケシ屋を継ぐことになりました」と言われても、周囲はなかなか「あぁそうですか」とはならないでしょう。
もちろん何事にも想定外の事態は発生しますが、そのような時には「コケシ屋で働きたい」ではなく「コケシ屋で働かざるを得ない」状況のほうが多いでしょうし、そこが現業と畑違いであればあるほど「今さらお前がコケシ屋に入ってやれることなどあるのか」という心配の声をいただくことにもなっていきます。
とはいっても、親族の事情に他人が口出しするのにも限界はありますので、周囲は不安を覚えながらも(しぶしぶ)送り出すしかない場合が多いのではないでしょうか。
私の場合は、「自分が親族の家業を継ぐしかない」というほどの全力訴求ではなく、「家業に携わる親族を支える」というレベルでの関与を想定しました。
正直に申し上げると、「遠方にいる年老いた親族のもとに、必要な時・行きたい時に躊躇なく行けるようにしたかった」というところだったと思いますし、今それは実現できていますので、非常に良かったと思います。
パターン4:「しばらくの間、のんびりします」
まぁ、転職前提の退職であっても「まずは1〜2カ月は休息をとってから、ゆっくり考えます」ということはあり得るかと思います。
しかし、「しばらくの間って、どのくらい?」と聞かれて「そうですね、2〜3年でしょうかね」などと答えようものなら、周囲は黙っていないでしょう。
人に雇われることにホトホト疲れたとか、人生をとことん見直したいという場合には、そこに年単位の時間を要してしまうこともあるでしょう。
しかし、「どうやって食べていくの?」が解決しない限り(あるいは納得のいく説明がない限り)、50歳近い男の「のんびり」宣言など、まず認められません。
とりわけ、親族からの異議申し立ては強烈になります。
ちなみに私の場合、「嫁なし、子供なし(正確には「いなくなった」ですがw)」という気楽なポジションでしたが、それでも周囲からは「お金はどうする?」を散々問われました。
「のんびりします」宣言をしていないのに、です。
どうも「お金の心配」をしてくださる方々には、
「たとえわずかずつであっても蓄えを切り崩して生活していくことは悪。
蓄えは常に増えていくべきもの」
というふうに考える傾向があるようです。
「働き始めて10年も経たない新婚家庭」とかなら分かりますが、私のようなライフステージのおっさんにそれを求められても、というのが正直なところです。
パターン5:「まだ考えていません」
ある意味、これも私の本音に近いのですが、ストレートに「この先のことはまだ何も」みたいなことを表明してしまうのは、さすがに周囲に対する優しさが欠けていると言えるでしょう。
「2ヶ月間はのんびりしながら職探しをして、できれば半年以内にやり慣れた営業の仕事に転職したい。
それがきびしい時には、前から打診されている親戚の漬物屋の手伝いをするかもしれない。
ゆくゆくは行政書士の資格をとって独立開業してみたいが、具体的なことはこれからです」
何も決まってなかったとしても、このくらいのことは言ってあげたほうがいいと思います。
やる気もないことをあれこれ並べるウソはよくありませんが、あまり馬鹿正直に「なんにも決めてないもんね」と答えるのも大人げないという感じでしょうか。
以上、「早期退職して、なにすんの?」と問われた場合の考え方をお伝えしました。
次回は「何をするかを誰かに問われなくても、考えておいた方がいいこと」などについて考えてみます。
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