広告代理店の電通さんには、1951年に作られた「鬼十則」という“行動規範”があるそうです。
ウィキペディアさんから引用します。
- 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
- 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
- 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
- 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
- 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
- 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
- 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
- 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
- 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
- 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
と、なかなか迫力のある文言が並んでいます。
しかし、2015年12月に起きた「新人女性社員の過労自殺」を受け、2017年度からは社員手帳への掲載をやめたそうです。
「仕事は自ら創るべき」とか「先手先手」とか、ビジネスにおいて今でも使えそうなことが謳われている一方で、「殺されても放すな」「引きずり回せ」などの不穏当な表現が含まれているのも事実でして、社員手帳から削除したのも、まぁ妥当な判断なのだと思います。
そうこうしているうちに、同社にはかつて「戦略十訓」というものがあった(らしい)ことも知りました。
社員の行動規範である「鬼十則」に対し、こちらは「広告を通じてモノ・サービスを売り込むための兵法」みたいなものなのだと思います。
以下、ウィキペディアさんを参考に、並べてみます。
- もっと使わせろ
- 捨てさせろ
- 無駄使いさせろ
- 季節を忘れさせろ
- 贈り物をさせろ
- 組み合わせで買わせろ
- きっかけを投じろ
- 流行遅れにさせろ
- 気安く買わせろ
- 混乱をつくり出せ
これまた、「鬼十則」以上に時代錯誤感たっぷりなメッセージ集になっています。
しかし、これは「消費させるための『べき論』」なのですから、裏返しに読み換えれば「無駄な消費をしないための『べからず集』」が出来上がるんじゃないかと思いましたので、ちょっとやってみます。
題して、早期退職者に必要な「消費生活十訓」です。
1.「もっと使わせろ」 → 「足るを知りましょう」
「足るを知る」ことで、今あるものを大事に使っていくということです。
ダイエットと同じで、腹八分目で満足できるようになれば、その分消費量も減らせるでしょうから。
いわゆる「もったいない精神」にもつながることかと思います。
2.「捨てさせろ」 → 「必要なものを選びましょう」
単純に裏返せば「捨てるな・大事に取っとけ」ということになりますが、それだと「不要なものまで大量に所有し、どれも捨てられずに身動きが取れない」事態にもつながりかねません。
ここは「断捨離」の精神を反映し、「“捨てる・捨てない”を考える、さらにひとつ前のステップで、必要なものを熟慮することこそ肝要」というトーンに変えてみました。
3.「無駄使いさせろ」 → 「大切に使いましょう」
これは、料理に喩えると分かりやすいかと思います。
「余るほど買わない(使い切る前に痛んだり飽きたりする)」
「不必要に使い過ぎない(大量に作ったり、大食いしたりしない)」
「残さず最後まで使う(まだ使えるものや、まだ残っているものがあるのに次を買ったりしない」
こんなイメージです。
4.「季節を忘れさせろ」 → 「旬のものこそ安い・美味しい」
これは、読んで字のごとくです。
まだ暑い夏の時期に『今シーズンの秋冬物』のファッションアイテムが売られ始めますが、それらが必要な寒い時期になればどうせ「バーゲン」が始まって、安く買えたりするのです。
同様に、冬にスイカを欲しがったり、春に松茸やサンマを食べたくなったりすると、高くついたりします。
5.「贈り物をさせろ」 → 「気持ちを届けましょう」
大事なのは「あなたをリスペクトしています・好きです・感謝しています・祝いたいです・悼みたいです」という気持ちであって、その表現形態が「贈り物」という有形物に限られる必要はありません。
写真だって絵手紙だって、一緒に美味しいお茶を飲むことだって構わないんじゃないでしょうか。
(「こいつ、セコイな。安く済ませやがったな」と思われるぐらいならモノなんて贈らないほうがマシですし、気持ちが伝われば安いモノでも喜ばれますし。まぁ、この辺のサジ加減が難しいのですが…)
6.「組み合わせで買わせろ」 → 「いいものを買いましょう」
これは私の経験則なのですが、「あれもこれも出来る複合機」チックなものを買うよりも、「これしか出来ないけど、それがメチャクチャ素晴らしい」ものの方が愛着が湧き、結果として永く使うことができます。
(例えば、保温機能はなくても、ご飯自体が美味しく炊けるバーミキュラライスポットなど)
また、さっきの「複合機チック」との違いが微妙なのですが、「AをするためにBを買ったが、CをするためにはDが別途必要になる」というのはいい買い物とはいえないでしょう。
再度バーミキュラライスポットで喩えれば、
「ご飯を美味しく炊く機能を追求していったら、その機能を応用して煮物はもちろん、低温調理とかヨーグルト作りまでできてしまう。よって、ヨーグルトメーカーや低温調理器具は不要になる」というようなことです。
(これは単機能(ここでは「加熱」)の応用拡張が素晴らしいという話でして、炊飯器に「冷却機能」を強引に組み込んでアイスクリームメーカーとしても使えるようにするような「機能の複合化」とは真逆の発想です)
7.「きっかけを投じろ」 → 「自分で考えましょう」
「今これが売れ筋です」と言われても、それが自分にとって最善の選択肢とは限りません。
また、「今度の◯◯は、ここが新しい・便利」とアピールされることに逐一反応していたら、私たちは新モデルの商品が出るたびに買い換えなければいけなくなってしまいます。
(サラリーマン時代の私がまさにこれでして、ほぼ毎年iPhoneを買い換えていました。w)
どんなに大量にきっかけを投じられても、自分で考えることをやめてはいけません。
(たとえ、自分の考えが“きっかけ”のおかげで変容したことを自覚できていないとしても、です)
8.「流行遅れにさせろ」 → 「流行に左右されないものを選びましょう」
まぁ、社会の変化や時流を完全無視することは困難ですが、デザインにせよ機能や味にせよ、シンプルなもの・オーソドックスなもの・普遍的なものほど永く愛せるのは、一つの真理なんじゃないかと思います。
10年以上前のスナップ写真を見て「なんだ、この髪型?」「うわぁ、この色使いと襟の形に時代が出てる〜」と感じるのは、だいたいが華美だったり派手だったりするものが多いですよね?
ただ、そんな中に「今見てもオシャレ」なデザインがあるのも事実ですし、「シンプルと地味」の境目を見つけにくいことも認めざるを得ません。
このへん、難しいところです。
9.「気安く買わせろ」 → 「吟味しましょう」
この戦略十訓ができた1970年代とは比べ物にならないほど、今は気楽に買い物ができます。
日本全国、いや、世界中から名産品を簡単に取り寄せられますし、Amazon Dash Buttonに至っては、ボタンをポチッと押すだけで翌日には商品が届くほどですから。
そんな時代だからこそ、
「本当にこれを買う必要があるのか?」
「これより他に、もっといいものがあるんじゃないか?」
「これの代わりになるものはないか?」
「そもそも『買う』以外の手段はないのか?」
というあたりは常に意識しておきたいところです。
10.「混乱を作り出せ」 → 「まずは、落ち着きましょう」
「このセールは明日まで!」
「キャッシュバックは今日限り!」
「完全限定で先着1000名様まで!」
「消費税がアップする前に、あれもこれも買っとけ!」
「この電子マネーで支払ったら、20%還元するよ! 総額100億円だよ!」
などなど、混乱を呼ぶメッセージには色々なパターンがあります。
いずれも消費者の心をザワつかせてくれますが、これらの「混乱」に巻き込まれて、本来不要なものを買っていては本末転倒でしょう。
各種情報には、落ち着いた上で冷静に接したいものです。
ということで、最後に私流の「消費生活十訓」をまとめておきます。
- 足るを知りましょう
- 必要なものを選びましょう
- 大切に使いましょう
- 旬のものこそ安い・美味しい
- 気持ちを届けましょう
- いいものを買いましょう
- 自分で考えましょう
- 流行に左右されないものを選びましょう
- 吟味しましょう
- まずは、落ち着きましょう
サラリーマン時代には(定期収入があるので)無自覚に散財を続け、その延長線のまま早期退職した人も少なくないと思います。
また、私のように「高いものは、結局お得」を信条として生きてきた人もいるでしょう。(←これも散財の一種だと思います)
そんな私としては、節約一辺倒では息が詰まりますので、気持ちのゆとりを持ちながら頭を働かせる「消費生活十訓」を考えてみたつもりです。
ま、基本は「ボーッと買ってんじゃねーよ!」ということかと思います。
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